先週、続けて井上和男の監督作品を見た。
井上和男は、1924年小田原生まれ、早稲田大学在学中に学徒出陣し、復員して松竹大船撮影所に入った。鈴木清順と同い年で、経歴もほぼ同じだが、2011年に86歳で亡くなっている。
彼の1961年の『悪の華』と1963年の『無宿人別帳』である。前者は、アクション映画で、佐藤慶の小悪党が野球場で目を付けた桑野みゆきを拉致するもの。単に強盗、暴行するつもりだったのが、桑野が大金持ちの娘だったので、誘拐に変えて、悪党一家の佐藤慶の実家の面々が桑野の父加藤嘉から奪った5,000万円を巡って殺し合うというもの。
鈴木清順がいた日活なら、爽快なアクションにするはずだが、松竹大船なので、モタモタしてなんともアクション映画として中途半端な出来。
彼には、『水溜り』などのなかなか面白い作品があり、言わば松竹ヌーベルバーグを用意したような側面があったのだが、これはつまらなかった。
さらに『無宿人別帳』は、もちろん松本清張の原作の時代劇で、元は連作の獄門者話だが、ここでは佐渡での金山の採掘作業に当たらせられた者たちの群像劇にしている。脚本は小国英雄と井上の共作。
三国連太郎以下、佐田啓二、伴淳三郎、中村翫右衛門、津川雅彦、長門裕之ら、癖のある者たちのドラマが続く。
最後、前任の島の代官らの不正蓄財を糾そうとする新任の代官田村高広を失脚させるため、悪徳商人が三国をたきつけて島抜けをさせようとする。
もちろん、罠で次々と一味は捕縛される。
だが、最後仲間の佐田啓二は、逃亡も闘争も止めて、代官所を「焼き討ちしろ」と自殺的に嗾けて自分も倒れる。
その間に、若者津川雅彦は、島の娘岩本多代と小舟で島を出てゆく。
これは、私には井上和男は、「大船撮影所など焼けてしまえ」と言い、大船を女優と共に去って行った大島渚、篠田昌浩、吉田喜重らのことのように見えた。
その後、松竹の製作縮小の中で、井上和男も大船を去り、東京映画等で大したことのない作品を撮ったが、今村昌平の映画学校で教えている頃は、ほとんど小津安二郎映画の宣伝マンのような状態だったそうだ。
現在、小津が世界的に高い評価を得ているのには、井上の活躍があったことは間違いいないだろう。
そして井上は和男は、後輩である今村昌平が映画『復讐するはわれにあり』の時は、製作を担当して名作を作った。
日本映画史に残る業績だったと思う。
衛星劇場