午後、阿佐ヶ谷のラピュタに行き、松竹メロドラマ特集1本目を見る。
1960年8月大庭秀雄監督の佐田啓二、岡田茉莉子、桑野みゆきが主演の『離愁』。
琵琶湖で自殺しようとしていた桑野を陶芸家の佐田が助け、東京から叔母が来ると、それは4年前に付き合ったことのある岡田だったと言う、よくある話。
岡田は、大学教授中谷昇の妻。中谷は、学会で半年フランスに行く。その間の岡田のよろめきドラマ。
中谷家の女中が、市原悦子。
この頃から彼女は女中だったんだね。
今では、家政婦は見たシリーズ等で、テレビ・ドラマの主演女優にご出世されているのは誠に喜ばしいことだ。
桑野は岡田の姪の女子大生で、大学助手らしき山本豊三と婚約していたが、山本が年上の岡田に恋心を抱いていたことから、桑野は自殺しようとしたのだったとさ。
ここで、岡田・佐田の不倫、岡田・山本の年上の恋愛関係、さらに佐田をめぐる岡田と桑野の三角関係が描かれる。
だが、1960年であり、もともと品の良い大庭監督なので、セックスなどとんでもない、最後に佐田と岡田が多摩のつり橋で抱き合い、キスするだけで終わる。
要は、「いろいろあるが、聡明な夫人の知恵で不倫にはならない」というフランスの恋愛小説の王道の展開。
原作は井上靖だが、井上にはフランス恋愛小説の素養があったのか。
いずれにしても、このハラハラさせるが、結局は何も起こらないということが重要で、それがこの時代の道徳であり、すぐにセックスしてしまう1970年代以降とは根本的に違う。
逆に言えば、こんなことをやっていたから松竹大船は駄目になったとも言える。
さて、阿佐ヶ谷を後にして、小田急の参宮橋に行き、「ヒマラヤ映画祭」の『花嫁の峰 チョゴリザ』を見に行く。
これは、1958年夏に京都大学山岳会がカラコルム山脈のチョゴリザの初登頂に成功したときの記録映画で、一般にも公開されてヒットしたもの。
隊長は「第二芸術論」の桑原武夫、京都大学学士山岳会というのが嫌らしいが、この頃は大変な登山ブームだった。最近は、また団塊世代による登山が盛んなようだが。
映画は日本映画新社がカメラマンを派遣して撮ったもので、芥川也寸志の音楽が少々煩いが、カラー画面はとても美しい。
解説が也寸志の兄の芥川比呂志で、きわめて淡々としていて、知性を感じさせる。
隊員とシェルパが9人、その上に150人のポーターという「大名旅行」にも見えるが、当時は装備品も悪く、このくらいの人員が必要だったのだろう。
最後、2人の選抜隊員が第3キャンプを出て、頂上に登るところが、500ミリの超望遠レンズの映像と時計のカット・バックで表現されている。
構成・編集の伊勢長之助の冴えである。
一応、映画は見られて十分に目的は達せられたが、二つ大変不愉快なことがあった。
一つは、どこにもポスター、チラシ等の会場の案内がなかったことで、代々木の青少年総合センターは大変広いので、上映会場を探すのに苦労した。
また、カラーなのに途中で3回色が消えてモノクロになった。
DVDの上映機器の調整の不手際である。
1回目は5分くらいで自然に直ったが、2回目は約10分を過ぎても白黒のままなので、受付に注意しに行く。
3度目は、残り5分くらいだったので、バカらしくてやめる。
この映画祭は、ヒマラヤの自然、環境、文化、人権等を考えるものらしいが、映画祭なら、まずは、きちんと会場を案内し、作品を上映すべきだ。
「上映環境」がきちんと出来ていない映画祭のNPOに、「環境問題」を口にする資格はない。