『珍版・大久保彦左衛門』

講談ネタで有名な大久保彦左衛門もので、古川ロッパの当り役で、原作は菊田一夫なので、元はロッパ劇団の芝居だろう。

16歳の初陣から始まる。ロッパの16歳は少々苦しいが、まあいいだろう。

江戸は天下泰平で、大久保の「われ16歳の初陣で・・・」などと城で言っても誰も聞かない。

ロッパは、この彦左衛門役はぴったりだが、実際にも非常に傲慢な人で、戦前、戦中は大人気で良かったが、その時代の威張りすぎの反動で、戦後は爪はじきになるが、そんなことは露知らずの1939年。

ロッパは、貧乏だが華族の出で、早稲田大学を出て、雑誌『キネマ旬報』の創出者の一人であり、小説、エッセイ、日記も書く当時では桁外れのインテリ喜劇人だった。

現在で言えば、タモリくらいの知的レベルの人気者だった。

一心太助は藤原釜足、恋女房のおなかは江戸川蘭子。笹尾喜内は高瀬実乗だが、ここではロッパに遠慮して「あのね、オッサン」は言わない。

劇はごく緩いもので、すぐに歌が入り、時代劇ミュージカルで、監督は斎藤寅次郎。

話の後半は、上役の渡辺篤に戦場で、亭主のサトウロクローを殺され手柄も取られた女房清川虹子の願いで、悪人渡辺を懲らすのが主題になる。

渡辺は今は川勝丹波守として出世している。彼は、戦後の黒澤明映画での脇役で見られるように大変に上手い役者である。

渡辺の屋敷で歌う足軽連中が、あきれたぼういずで、川田義雄、坊屋三郎、芝利英、益田喜頓と、新興演芸部に引き抜かれる前のオリジナル・メンバー。

渡辺の罪を暴くのが、清川が持っていた反魂香で、これを炊くと死人が出てきて証言する。

徳川家光の小笠原章二郎の御前で、反魂香で死んだサトウロクローを呼び出そうとするが、義経と弁慶、小野小町、ナポレオンらが出てきてしまうギャグ。香がニセモノだったのだ。

最後、本物の反魂香を持っていた渡辺の懐から落ち、炊かれてすべてがばれてしまい、渡辺は切腹。

喧嘩両成敗で、旗本は駕籠での登城禁止とのことで、ロッパ以下の多くの旗本が、盥で登城するところでエンドマーク。

音楽は鈴木静一で、脚本は小国英雄、当時の東宝のドル箱映画だった。

衛星劇場

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