監督不在の映画

田村正毅の前述の本に面白いことが書いてあった。
それは、彼がカメラをやった2本の劇映画のことで、藤田敏八の『修羅雪姫』と黒木和雄の『竜馬暗殺』であり、どちらも「監督不在」の作品だったというのだ。

藤田作品では、芝居が決まっても藤田からのカメラの撮り方の指示は一切なく、「どうするのかな、どうすればいいのかな」と言うばかりなので、「こうすれいいのでは」と田村が聞くと、「それがいい」で決まり、すべて田村がカメラの段取り、ポジション、アングルを決めて撮ったのだそうだ。

また、『竜馬暗殺』は、別名「ゴールデン街映画」と言われ、新宿ゴールデン街にたむろする映画人で作られた。
撮影は、極貧の予算の中、ほとんどが世田谷の醤油工場跡で作られ、毎日撮影が終わると、主要スタッフ・キャストは、ゴールデン街に行き連日飲んだ。
そこで、明日のシーンの打合せが黒木監督抜きで行なわれ、その通りに撮られたというのだ。
だが、そうして作られた作品が、藤田や黒木の監督の個性がないのかと言えば、どちらも極めて個性の強いものになっている。
2人とも、スタッフ・キャストの自由な創意工夫を尊重し、取り入れて作る監督だったと言うことだろう。

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