『雨の夏、30人のジュリエットが還ってくる』

1982年に日生劇場で行われた、清水邦夫作、蜷川幸雄演出公演の27年ぶりの再演であるが、前回よりもはるかに良かった。

理由は二つある。
前回は、男優の渡辺文雄、佐藤慶、三谷昇、山谷初男ら以外の女優は、主演の淡島千景、久慈あさみ、甲にしき、汀夏子など、ほぼ全員が宝塚女優で、残念ながら清水邦夫の観念的、詩的な台詞を十分表現できなかったことだ。
さらに、戦前に富山市にあった少女歌劇団の再演という、男優が宝塚のように着飾って大階段を大階段を下りてきたりなど、相当にグロテスクな演出があり、前回は、さすがの蜷川幸雄もテレてやっていた。
だが、今回はウエンッ・瑛士が嬉々として女装しても観客は大喝采し、堂々と演出できるなど、この間の「ユニセックス文化」への許容量の増大である。

前回は、汀夏子で、その無内容さに参った、古谷一行の義妹のダンス教師役は、中川安奈で、大変カッコ良かった。
また、音楽は前回とまったく変えたそうだが、歌唱は宝塚随一の毬谷友子で、例によってラーメン屋の出前の変装で出てきて、カタルシスのある歌い方には、大変扇動させられた。
前は、久慈あさみがやった主人公の伝説の男役は鳳蘭。
相手の娘役で空襲のため記憶喪失になり狂気の世界をさ迷うのは、三田和代で、さすがの演技だった。
前回の宝塚の女優陣も、確かに演技派だったが、清水・蜷川の複雑で屈折した台詞と世界を表現するのはいくらなんでも無理だったのだ。

古谷一行、山本龍二、磯部勉らの男優陣も良く、この劇が極めて複雑で高度な中身を持っていることが初めて分かった。

清水邦夫、蜷川幸雄が9年間の別行動の後、初めて再会した作品だが、必ずしも上手くいかなかった前回の上演が、今回はきわめて上手く行ったと思う。
近年になく大変感動した作品だった。
フィナーレは、忌野清志郎の『デイ・ドリーム・ビリーバー』で、劇を常にそのときの記録として作る蜷川らしいやり方で、成功していた。

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