『女給』

東映にこんな作品があるとは知らなかった。
題名どおりに、普通の会社のOLから、ほんのアルバイトのつもりで銀座の女給になり、本当に女給になってしまう女杉葉子を描くもの。
制作が藤本真澄なので、監督は千葉泰樹、主演の杉葉子のほか、杉の相手の恋人役が伊藤久哉、越路吹雪と上原謙が助演するなど、東映と言うより、東宝的な作品である。
杉と対照的に、女給から美容師になって銀座から抜け出そうとする中年女が越路で、その一人息子は小畑やすし君、彼は設楽幸嗣君と並ぶ、この時代の名子役だった。
越路は、戦時中は満州に住んでいて夫を失い、引き上げて来て、一人息子を育てるため銀座のバーで働いている。
上原は、満州時代の夫の同僚で、偶然に東京で再会し、越路への同情から美容院開設の援助まで進むが、その裏には会社の金を流用した株売買があり、最後は会社を退職するはめに至る。

杉葉子は、世間体を気にする英百合子の母親と同居していて、会社の同僚伊藤久哉と恋人だが、結婚資金を早く貯めるため、女学校時代の友達が働いていた銀座のバーに行くと、友人は辞めている。
だが、一の宮敦子がマダムの、その店で働くことになる。
そこには、漫画家の山形勲をはじめ様々な男が来て、女が働いている。
杉は、次第に女給生活になじみ、ついには一の宮のパトロンの不動産屋が、道路整備計画を都合よく捻じ曲げるための人身御供として建設官僚徳大寺伸に差し出されるまでになる。
この間、約1年間。
その結果、杉葉子は、報酬として50万円を得るが、すぐに汚職がばれ、徳大寺も杉も逮捕される。
だが、一の宮の店を辞め、杉は、徳大寺を支えながら、本当に銀座の女給として生きていくことを決意する。

脚本が猪俣勝人で、この頃は純粋に日本の社会や組織の悪を怒り、悲憤慷慨していたようで、大変よくできていてとても面白かった。
OLから女給へと「堕落」していく杉葉子を、猪俣は完全に擁護し、生き方を肯定している。
風俗映画、女給映画としては、川島雄三監督、池内淳子、池部良主演の『花影』、成瀬三喜男監督、高峰秀子、森雅之主演の『女が階段を上るとき』などの東宝系の名作が、また大映にも京マチ子と山本富士子の『夜の蝶』がある。
だが、銀座を描いても梅宮辰夫の、すけこましの話になってしまう東映にも、初期にはこんな映画もあったのか、と大変驚いた。
フィルムセンター

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