『反逆児』

集団時代劇シリーズの『十一人の侍』『大殺陣』に続き、昭和30年代の東映時代劇の名作1961年の『反逆児』
監督伊藤大輔、主演中村錦之助である。
徳川家康の長男として生まれ、武勇をうたわれながら、母の杉村春子の築山殿が今川義元の血を引き、妻の岩崎加根子が、織田信長の娘であったために、その家同士の確執、織田信長からの疑い、さらに父家康の徳川家の安泰を第一と考える冷徹さで、自死を選ぶしかなかった男の悲劇。

合戦の場面をはじめ、今川の間者であった針医者河野秋武への馬による引き回しの刑、さらには杉村春子の前で行われる遊芸者の舞など、実に豪華で手が混んでいる。
配役も、織田信長が月形龍之介、家康が佐野周二、また服部半蔵は東千代之介と大変豪華である。
中村錦之助の演技も自由闊達で上手い。

だが、全体にどこか変な気がする。
やはり、封建時代の武士の家、特に頭領の家を、現在の家族の見方で描き、裁いていることに無理があると思う。
この時代、母と言い、父と言っても、子供たちと一緒に住んでいるわけでもなく、家庭と言ったものが存在したわけではない。
また結婚は政略あるのが当たり前で、双方の事情が変わればすぐに離縁、再婚と言うのも普通だった。
そのなかで、最後に中村錦之助の信康が、岩崎と十分に意思が疎通できなかったことを悔い、「もっと早くから分かりあえていれば」と思うのは、大変おかしいのである。
人間性がない、などと言うのは、近現代の発想で、この時代にあるはずもない。

原作の大仏次郎の『築山殿始末』は、戦後の作品だが、どこかの「新歌舞伎」のような、大正ヒューマニズムで封建時代の人間を見ているような感じがする。
音楽が伊福部昭で、丑三つ参リをする杉村春子の呪いのすごさのみがひどく印象に残る。

ここで興味深いのは、歌舞伎畑の中村錦之助が、素直で自然な演技をし、杉村春子や岩崎加根子のような新劇の俳優が、歌舞伎まがいの大げさな芝居をしていることである。
「こういう大芝居の時代劇は、もう時代遅れだ」と、京都、東京の古い監督、役者たちを整理して東映を立て直したのが、今週亡くなった岡田茂である。
確かに、見ていて肩がこる作品だった。
NHKBSプレミアム

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コメント

  1. uhgoand より:

    丘ちん
    本州最西端の田舎町で封切りを見た
    当時大の錦ちやんファンで伊藤大輔の大作ということで張り切つて見たが
    やたらと力が入つているばかりで映画としての面白味 躍動感に欠け拍子抜けした
    その前の織田信長 独眼流伊達政宗みなそうであつた

    恵ちやんや梅川のネコちやんお通の若葉等々錦ちやんの相手役にはいろいろ工夫 苦労をしていた
    この妻役も岩崎加根子がどうして選ばれたのか惑い感があつた
    当時それなりに知名度もあり上手い女優ではあつたが・・・・・・
    何となくひねた感じが好悪の分かれるところでそれがまたユニークだつた
    しかし錦ちゃんにいちばん合つていたのは丘ちんだつたと思う