『月下の若武者』

1957年、日活が作った大型時代劇でカラーである。
主人公は、若狭の荘園領主の息子長門裕之と津川雅彦の兄弟。
兄は、笛の名手、弟は剣の使い手ということになっていて、兄の許婚は浅丘ルリ子である。
原作は大林清、監督は戦前からの日活の時代監督冬島泰三。

これは明らかに、東映時代劇の中村錦之助と東千代之介兄弟による、『紅孔雀』『オテナの塔』などの新諸国物語シリーズを真似たものであり、それをカラー、大画面にしたものである。
筋は、若狭で平穏に暮らしていた兄弟が様々な苦難に遭遇し、両親と土地を失い、京都で悪党や退廃貴族とも関わるが、最後はめでたしめでたしとなるもの。
だが、時代劇とは言え全体にアメリカの西部劇、アクション映画の雰囲気であり、野性的な女香月美奈子が出てきて、津川に惚れ、また袴垂党(水島道太郎)の群れに入るが、そこでいきなりバレーのような踊りを披露するのには笑ってしまった。
音楽は、渡辺岳夫、渡辺浩子兄妹の父渡辺浦人で、民族的で勇壮な音楽である。
渡辺浦人の曲で一番有名なのは、「剣を取っては日本一の 」の『赤胴鈴之助』のドンドコいう主題歌だろう。

さて、長門裕之から、水島道太郎、果ては関白の清水將雄、いんちき坊主で若狭をかすめ取る安倍徹までもが、ものにしようとするのが、浅丘ルリ子で、この頃、まだ17にもなっていないが、実に可愛い。

津川の恋人になる貴族の娘で稲垣美穂子が出ているが、『孤独の人』で当時の皇太子、現在の天皇陛下の恋人役だったが、台詞がまるで素人。
因みに、映画『孤独の人』のとき、最初の皇太子役は、小林旭だったというのだから信じがたい気がするが。

そして、最後で、津川が「自分にもっと重荷を課すため」などと奇妙なことを言って稲垣美穂子のいる都から去っていくのは、後の小林旭の「渡り鳥シリーズ」に繋がる系譜というべきだろうか。
日本映画専門チャンネル

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