『エッグ』

改修された東京芸術劇場の大ホールは、今までの白い壁がレンガ作りになり、とても良い雰囲気に代わっていた。
私は、白い壁の劇場は、暗転にしても完全に暗くならないから嫌いで、ホールの壁は黒に限るのだ。
たとえてみれば、今はない森下のベニサン・ピットを大きくしたような、稽古場風の作りである。
これは芸術監督としての野田秀樹としての最高の仕事となるかもしれない。

さて、始まると劇場の案内人として女装の野田秀樹が修学旅行の女生徒を連れてくる。
そこで、野田は、寺山修司の戯曲『エッグ』の原稿を発見する。
その未完の戯曲の形で劇は進行する。

エッグと言うのは、その名のとおり、卵を手に取ってラクビーのように争う競技らしいが、記録を残さないものとのことで詳細はよくわからない。
そこでは仲村トオルの粒来幸吉(もちろん円谷幸吉のこと)が、王者として君臨してきたが、そこに東北の田舎から突然妻夫木聡の阿部比羅夫が現れて、トップになる。
妻夫木は、いちご一絵(一期一会)で人気ロック歌手の深津絵里と恋仲になり、ついには結婚する。
だが、それは深津の母親で、エッグ・チームのオーナー秋山菜津子の深謀の結果だった。
さらに、監督の橋爪功と秋山は本当は夫婦で、その間に生まれたのが深津だったのである。
というように野田には珍しい因果話で、あれっと思う。

だが、驚くことに、この劇で、「エッグをオリンピック種目に!」
「オリンピックを東京に!」
などのスローガンが連呼されるので、これは1950年代のことかと思う。
これは何と戦前の1940年に東京で開催されるハズだった幻のオリンピックのことなのである。
さらに、この劇の舞台は満州の首都新京なのである。

いくらなんでも飛躍しすぎじゃないのと思いつつ、例によって最後の30分間で、野田秀樹得意の宙空に向かって吐く独白の陶酔的瞬間で泣かせるのだろうと思っていた。
だが、最後まで陶酔的な独白はなかった。

野田秀樹もやや飽きたのだろうか。私は野田のファンではないので、若い野田秀樹ファンのご感想をお聞きしたいところである。

仲村、妻夫木、深津、秋山、橋爪らの役者と椎名林檎の音楽はとても素晴らしい。
ただし、ひいきの仲村トオルの独白がなかったのは、大変残念だった。
私はそういう趣味はないが、彼の低い声の台詞はとてもセクシーで、しびれるのだから。
東京芸術劇場

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