『敗れざるもの』

昭和39年、原作石原慎太郎、監督松尾昭典、主演石原裕次郎。脳腫瘍におかされた少年小倉一郎とその家の運転手裕次郎との友情の物語。
裕福な家庭(宇佐美淳也と三宅邦子、姉が十朱幸代)の天文学好きの中学生小倉が脳腫瘍におかされ、目が見えなくなり、右半身が不自由になり、2度の手術、抗がん剤治療をするが死んでしまう闘病もの。医師に大坂志郎、清水将夫、河上信夫らのいつもの日活脇役陣。

同時期に吉永小百合と浜田光夫の、興行収入25億円の大ヒット作『愛と死を見つめて』も公開されたが、こちらは話題にもならず、ヒットもしなかったようだ。

その原因は、吉永小百合という人気絶頂の女優が腫瘍に冒される少女を演じたのに対し、こちらは主演が当時は無名の小倉一郎で、余り感情移入できないこと。
また、吉永・浜田作品では、普通の家庭であり、病院では貧民に属するような笠置シズ子、都蝶々らも出て、同情を引くようにできているのに対し、ここでは運転手付の富豪の家庭で、小倉もデパートで高価な天体望遠鏡を買ってもらい、同情よりも反発を招くものだったこと等であろう。

脳腫瘍の手術のシーンが精緻に表現されているが、当時ヒットしていたテレビの『ベン・ケーシー』等の医者ドラマを踏まえたものだろう。

裕次郎の前歴は、タクシー運転手の他、ダム工事の労働者等で、それが回想で入る。

死期を知った少年を裕次郎が東京見せてまわるシーンは、今では貴重な映像である。

氷川神社の祭り、今はない東急文化会館のプラネタリウムなど。

監督の松尾昭典は、アクション映画が中心だが、中でも桑野みゆきと裕次郎の広島を舞台にした『夜霧の慕情』は、ムード・アクションの傑作だった。
舛田利雄と並び、なんでも作る職人監督だったので、高い評価は得ていないようだが、私は好きだった。
日活の後は、テレビの『大江戸捜査網』などで活躍されたようだ。

こうした文芸作品でも確かな技術を示している。

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