岸田今日子死す

女優の岸田今日子が死んだ。76歳と言えば、一昔前なら大往生だが、今では早い感じだ。超高齢化時代である。

ところで、個性派という形容が相応しい彼女だが、それには父岸田国士が大きな影響を与えていると思う。新聞の訃報では、「文学座の創立者の一人」程度にしか書かれていないが、この人は、戦前、戦中、戦後相当に有為転変のあった人である。
はじめは劇作家で、中篇くらいの劇が多いが、なかなかいい作品があり、今日でも上演可能である。
映画史的には、小説『暖流』の成功と、その原作者としての名声であろう。
その性か否かは知らないが、戦中期、彼は大政翼賛会文化部長になり、戦後は公職追放の身となる。
文化部長も途中で辞めた性もあってか、それほど戦争責任を追求されたことはなったようだが、それでも戦後の活動は余り積極的ではなかったようだ。
そして、比較的若くして死ぬ。今日子と同じ脳の病気であつたらしい。

岸田今日子は、こうした父の一生を近くでよく見ていた。
時代に迎合すれば、どこかで流されたり、また復讐されたりする。
信じられるのは、自分の個性だけ、そんな生き方を決めていたように思う。
思えば、あの『ムーミン』のムーミンも相当な個性派であり、静かな抵抗者であった。
因みに『ムーミン』の訳者山室静は、『近代文学』派の作家だが、戦前、戦中は
共産主義運動一味として弾圧されたことがあるのだそうだ。
個性派の死を追悼する。

彼女の映画としては、代表作は『砂の女』だろうが、増村保造作品等にも随分出ている。
浅丘ルリ子主演の『女体』でも、岡田英次の女房として、不良娘浅丘を「どうしようもない女だが、こういう女の時代だな」という感じで見ている。
また、市川昆監督の『おとうと』では、岸恵子、川口浩の義母田中絹代の信者友達として、姉弟を嫌う余り気分のよくない役。
小津映画では、『秋刀魚の味』の笠が行くと『軍艦マーチ』を掛けるバーのマダムが良い。
『軍艦マーチ』は、御免だが、ああいうマダムがいる店があったら、是非行きたいものである。

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コメント

  1. rose より:

    岸田今日子
    岸田今日子さんの死を悼みます。

    私の好きな女優の一人でした。

    「傷だらけの天使」で「おさむちゃ~ん」と、あの声で囁かれたら、そりゃあ・・・

    このシーンをイメージしてオリジナルの曲を、作ったほどですから。