『関東女賭博師』

実をいうと、私は江波杏子の「女賭博師」シリーズをあまり見ていなかった。たぶん、公開当時では2,3本だけだったと思う。東映の藤純子の「緋牡丹博徒」シリーズの方が良いと感じていた。

さらに、昨年亡くなられた劇研の先輩の堀内聡さんから、「大映のは、滝田祐介などの新劇役者が出てくるのが嫌だ」と言われ、私もそうだと思ったからだ。

だが、2009年に川崎市民ミュージアムで「尼寺開帳」と「絶縁状」見て驚いた。非常に良かったからだ。

この『関東女賭博師』は、5作目で、監督は井上芳夫、主演はもちろん江波杏子。

井上は、様式的というか、グラフィックな画面構成が多いが、長谷川の好シナリオを得て大変に面白い作品になっている。

スリ大滝銀子の江波が、デパートで女の財布をすって金だけ取って捨て、トイレを出ると伊藤雄之助がいる。江波の手先の器用さを見込んで、賭博師になれと言って賭博の技を仕込む。

小料理屋に住込み、二階でまずはサイコロ賭博の技を教える。様々なイカサマも詳しく教えられるが、元警視庁鑑識課の長谷川公之が脚本なので、昔の伝手で調べたのだろう、非常に詳細で、この辺でまず賭博の世界に引き込まれる。サイコロの次は、花札で、「札を引く時の音で、札を識別せよ」というのも本当のように思えてくる。

この料理屋の女将は丹阿弥弥津子で、板前は田中邦衛、彼と一緒になる女性は姿美千子で、この作品が最後になったようだ。

銀子は、元スリの連中に見つけられ、「仲間を抜けるなら50万円出せ」とのことで、バスで伊藤孝雄の金をすってしまい、これが後に関係してくる。さらに、銀子は、伊藤には何も言わずに賭場に出て、金を稼ぐ。

このヤクザの組長が志村喬で、これも良い。志村は、銀子の人気に目をつけて、胴師の内藤武敏を首にしてしまうが、ここでは堀内説に反して新劇役者が多数出ていて非常に良い。

理由は、「女賭博師シリーズ」は現代劇で、「緋牡丹博徒」が様式的な時代劇との違いで、現代劇なので新劇役者が脇を演じるのも不自然ではないのだ。

賭博が行われる場所が面白く、いつもの日本旅館の他、風呂屋の浴場、山の中の工事現場の一隅など、これも長谷川らの調査のおかげだろうか。

最後は、賭博師の「名人戦」になり、伊藤雄之助は前回は決勝戦で負けて名人位が取れなかったのでエントリーするが、内藤に刺されて瀕死の重傷となり、代わって銀子が出場する。

もちろん、最後は江波と内藤の戦いで、緑内障で目が見えなくなっていた銀子は、伊藤の教えの通り、花札を耳を使って音で識別して内藤に勝つ。

伊藤孝雄が眼科医で、江波の目を治療して直し、再び賭場に銀子が出ているところでエンドマーク。

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