『狼』

1955年、新藤兼人の脚本・監督の作品、以前テレビで見たが、大きな画面で見たいので、川崎に行く。生命保険の外務員に応募した連中が、行き詰まり郵便車の現金を強盗する話で、実際にあった事件を素材にしているらしくで、いつも強引な描写の多い新藤作品には珍しく淡々とした描き方。

犯人は、菅井一郎、殿山泰司、浜村純、高杉早苗に勿論、乙羽信子の5人組。

冒頭、5人が郵便車を止めて強盗しようとするシーンがあり、そこから都内での生保会社が外務員を集めて扇動する件になる。小沢栄太郎、東野英次郎、芦田伸介などの社員、北林谷栄も係長でいる。

もちろん、生保の勧誘は上手くいかず、ついに菅井の提案で郵便車の強盗をすることになる。

現場は京浜急行谷津坂駅(能見台駅)から海に降りた海岸線近くだが、ここは金沢埋立で土地になったので、今とはまったく異なる風景。車の運転手は、近藤宏、柳谷寛など。

逃走に使う車は、米兵のオンリーらしい女性が乗っていたビュイックを殿山が強奪したもの。

私が横浜市にいた時、市の運転手には米軍のトラック運転で働いていたという人が多くいたが、皆米国車だったそうだ。

乙羽は、戦争未亡人で、息子は口蓋烈、つまり三ツ口で手術が必要なので、その費用に。

菅井は家族が多く、浜村は妻と離婚するための慰謝料で、殿山も生活苦からと、すべては貧困が諸悪の根源。殿山が住んでいるのは、鶴見で、鶴見線の安善駅が出てくる。付近のバラック街、乙羽が住んでいるのも近くのように見えるが、木造建築ばかりで「貧民街」と言う言葉が出てくる。

菅井が、質入れしていた服等を出したことから足が付き、次々と逮捕される。刑事は、神田隆、河野秋武など。乙羽は、息子を病院に入院させて手術を受けさす。

5人は、特徴的な高台で善人別れるが、乙羽は浜村と一緒に歩き喫茶店に入ると、労働者の安部徹が入ってきてラジオは菅井の逮捕を告げている。

二人は乙羽の家で一夜を過ごす。翌日、病院に行くと手術は成功しているが、乙羽は神田に逮捕される。

戦後の左翼独立プロ運動の最後の時期で、配給は独立映画になっているが、製作はもちろん近代映画協会。

糸屋、能登、山田の3人の製作者の名になっていて、彼らの繋がりか、結構豪華な配役である。浜村の妻は、特徴的な台詞で「あるいは」と思ったが、やはり坪内美子、菅井の妻は英百合子、乙羽の住む長屋で踊っているのは中原早苗、逃走するときの踏切の警官は下条正巳。

多くの人が亡くなられているが、ご健在なのは病院の看護婦の奈良岡朋子と事務員の佐々木すみ江、乙羽の息子役の松山省二くらいだろう。

川崎市民ミュージアム

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