テレビでは何度か見ているが、映画館で見る機会はそうないので、阿佐ヶ谷のラピュタに行く。
貧しく若い画家の裕次郎とお針子のルリ子のメロドラマ。
ルリ子の記憶喪失と回復という筋が大変上手く出来ていて、最後にルリ子が記憶を取り戻すところは、やはり涙してしてしまう。
玩具の卓上ピアノに一つだけ、音の出ないキーがあり、そこを偶然叩いてルリ子は記憶を取り戻す。
どこか洋画にあったような気もするが。
山田信夫と熊井啓の脚本。間宮義男の手持ちを多様したカメラが素晴らしい。
当時、日活撮影所にあった「日活銀座」と実景が巧みに混ぜられている。
裕次郎とルリ子の「愛の三部作」『銀座の恋の物語』『憎いあンちくしょう』『何か面白いことないか』の最初の作品。
江利チエミが刑事で助演し、ここでは江利の役名が関口典子(テンコ)になっている。
この三部作の『憎い』と『何か』では、どちらも浅丘ルリ子が榊田典子と倉橋典子と、典子になっている。
これは、脚本家の山田信夫が、女優松本典子を気に入り、そこから命名したのだ。
冒頭、銀座の都電の線路上に人力車を引く裕次郎、4丁目の時計台、巨大な屋上のネオンの前での二人のやりとり、松屋の店内放送など、銀座の光景がふんだんに出る。
記憶喪失後のルリ子が住んでいるのは、月島のようだ。
銀座周辺が出てくる映画としては、大好きな豊田四郎の名作『如何なる星の下に』と並ぶだろう。どちらも1962年の作品。
この映画は、もともと裕次郎の『町から町へつむじ風』(監督松尾昭典)の中で歌った『銀恋』がヒットしたので、その題名で作った、多分に速成の作品だが、名作となったのは、すごい。
当時の日活映画の偉力である。
名作は、単独で出来るものではない、という例証の一つ。