『祭りの準備』

NHKBSで深夜に放映。

1975年に川崎駅ビルの映画館で見たときにはとても驚いた。
黒木の映画は『飛べない沈黙』を典型に、極めて分かりにくいものだったからだ。
それが、ごく分かり易く、抒情的な作品だったのにはとても驚いた。
作品のはじめの方で、主人公江藤潤が、川の中で互いに船に乗った竹下景子とすれ違う映像の美しさにぞくっとした。

妻の馬渕晴子がいながら、真山知子、白川和子らの間を遊んでいる父親がハナ肇というのが意外。
その他、杉本美樹、三戸部スエ、石山雄大、下馬二五七、犬塚弘と多彩なキャスト。
恐らく日活で長くプロデューサーをやられた大塚和氏の人脈と信用だろう。

祖父が浜村淳で、彼は大阪に出て売春婦にされヒロポンで頭を冒されて戻ってきた桂木梨恵を孕ましてしまうが、出産で正気に戻った桂木には相手にされなくなる。
江藤潤の恋人が竹下景子で、彼女が最初に出来てしまう共産党の文化人が斉藤真さん。彼は、私の大学時代の劇団の先輩で、劇団俳小の代表である。

最後、お尋ね者になった原田芳雄が、駅のホームで万歳を連呼するシーンは余りにも有名。
ここは、録音の久保田幸雄さんの本を読むと、「オンリー撮り」という方法で録音したそうだ。
オンリー撮り、とはワイヤレス・マイクやレスシンクロ録音が出来ないときにする方法。
実際に演技をして映像の撮影が終わったとき、すぐにもう一度役者に演じてもらい台詞を録音する方法である。

だから、原田は、他の役者やスタッフがいなくなった中で、久保田さんと一緒にホームを走って録音したのだそうだ。
この作品は、その後の黒木和雄の作品に続く大きな転換点になったものだと思う。

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