『ある女学生の日記』

2007年に作られた北朝鮮の映画で、私が過去に見た北朝鮮の映画の中では、一番普通の市民の姿を描いた作品だと思う。

今回も上映された『花を売る乙女』、『プルガサリ』、の他、『金剛山の歌』や『義士・安重根』も見ているし、『金剛山の歌』は、北の国立歌劇団の公演を浅草国際劇場で見たこともある。

北朝鮮映画などというと、「非国民」と言われそうだが、やはり見ておく必要は十分にあると思う。

『ある女学生の日記』などというと、ロマンポルノみたいな題名だが、北朝鮮の平壌の近郊に住む女子高生の話である。

彼女の家は、母親と祖母、さらに妹の4人で、父親は技術者で、家にほとんどいなくて、彼女は、それが淋しくて仕方がない。

また、彼女は近代的なアパートの住むことが最大の夢で、このあたりの感覚は、1960年代の松竹映画みたいである。

淡々と語られるので、映画としては、香川京子のナレーションで綴られる成瀬巳喜男の名作『おかあさん』のような感じである。

主人公の女子高生は、工藤夕貴というか、昔松竹やテレビに出ていた岸久美子似で、一応美人。

彼女が通っている高校は、選抜された学校らしく、同級生の一人の父親は、博士号を取ったり、金正日と一緒の写真に映っしているのを自慢している。

一応は北朝鮮のエリートに属する人たちのようだ。

母親も働いていて、学校の図書館の司書をし、外国の文献の翻訳を離れた父の工場に送っている。

祖母は、土のある家が好きだと言い、家の仕事などをしている。

家の暖房はオンドルで、煙突が詰まっていて上手く燃えず、それを学校の友人たちがみんなで直してくれる挿話もあり、集団主義が貫かれている。

テレビやラジカセはあるが、パソコンはないようで、旧式の電気アイロンを使っている。

ある日、母が重病で入院するが、父親が見舞いに来ないので、彼女は父の工場に行く。

すると、父はエリートだと思い込んでいたが、現場の一技術者で、労働者と一緒に働いていることに驚愕する。

この辺は、小津安二郎の名作『生まれてはみたけれど』の、親の実像を知って落胆する子供である。

最後、彼女は無事理科系大学に入学し、父や母も、最上級のエリートではないが、国のために、その場で自分の役割を果たしているのだと納得する。

所々で挿入される余ったるい歌も、脚本のラストにも、「将軍様の影」と言うのが必ず付いているのが笑えるが、そうしないと製作できないのだろう。

全体の感じとしては、1950年代の松竹大船映画に近く、城戸四郎が見たら多分喜ぶに違いない。

黄金町シネマジャック

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