もんぺファッションってあったのだろうか

昭和19年の黒澤明監督の東宝映画作品に『一番美しく』がある。
平塚の光学兵器工場で働く女子挺身隊の話で、ドキュメンタリー的な作品である。
戦争末期の戦意高揚映画で、所長の志村喬が、きわめて精神主義的な演説をするなど、今見ると相当に異常な映画である。
その他、菅井一郎、河野秋武、入江たか子らの出演だが、スタッフ、キャストのクレジット・タイトルがない。理由はフィルムが欠乏していたからだ。

この女子挺身隊員は、自分たちで鼓笛隊を組織し、工場と寮の間を『愛国行進曲』等を演奏しながら通う。
その意味では、「軍歌ミュージカル映画」とも言えるかもしれない。

映画の主人公の隊長役・渡辺ツルは、矢口陽子で、彼女は黒澤明と昭和20年に結婚する。つまり、黒澤久雄、黒澤和子の母親である。
そして、この矢口陽子だけが、もんぺを短く穿いていて、踝が少し見える。

確か、吉行淳之助が、「もんぺと言うものは、なかなかセクシーだった」と書いていたが、この短く穿くというのも一種のファッションだったのだろうか。
映画を見ていると、この矢口陽子のわずかに見える白い素足が気になるのである。
アラブで、女性がベールで顔を隠すのは、むしろ性的興味を高めるためだそうだ。女性と言うものは、日本の戦争下のような異様なときにおいても、その中で少しでもファッションを工夫するということなのだろうか。

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