『戦ふ兵隊』

フィルム・センターで亀井文夫監督・編集の『戦ふ兵隊』を見る。
間違いなく傑作である。
1939年、東宝文化部作品で、前作の『上海』が好評だったので、同時録音で南京から武漢への日本軍の進軍を描く。
だが、これは「戦う兵隊ではなく、疲れた兵隊だ」との陸軍の反対で、上映禁止、後に亀井は治安維持法違反で逮捕され、このフィルムも行方不明となる。
戦後、昭和50年に都内の録音スタジオで発見され、公開された。

この幻の名作を見るのは、3回目だが、非常に感動した。
冒頭、祈る中国人老人、町を追われ逃亡していく中国人の列、廃墟のような町等が続く。
するといきなり、日本軍のタンクが轟音と共に画面に向かってくるショック。
この二つのシークエンスで、日本軍の攻撃、作戦のすべてが中国の土地と人間に向けられたもので、破壊し、陵辱するものであることを明確に描いている。
日本軍の炊事、散髪、行軍、武器の手入れ等の日常が淡々と積み重なれられる。
中には、作戦風景もあるが、これは実はやらせで、再現してもらったものだそうだ。
最後、日本軍は武漢に入場する。
ああ、堂々の皇軍の行進である。
だが、そこに歓迎する中国人は見えない。
広場で演奏される軍楽隊。それを聞く兵隊には疲労が濃く、また軍服、軍靴等もぼろぼろの、粗末さ。
確かに疲れた兵隊である。
そこに陸軍の検閲官も反発しただろうが、それ以上に軍備の貧弱さを、日本の内地の人間に知られたくなかったのではないか、と思った。
あの軍装では、まるで貧乏な兵隊である。
多分、今年最高に感動した映画となるだろう。

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