松本俊夫の劇映画で一番有名だが、唯一見ていなかった作品で、これで彼の劇映画は全部見た。と言っても、全部で4本だが。
ピーターの16歳でのデビュー作だが、松本俊夫の劇映画としては、一番優れていると思う。
松本の特質である批評性とドキュメメンタリー性が上手く劇に溶け込んでいるからである。
最後に出てくる淀川長治など、全く笑ってしまう。
他の松本作品にはない、ユーモアもここには沢山ある。
この映画の方向に行けば良かったと思うが、なぜか松本は奇妙な劇映画ばかりを作るようになる。
なぜか、優秀な人間にありがちの事だが、自分の得意の分野のみだけではなく、本来不得意の分野でも十分にできる才能があることを示したがるものなのだ。
併映で見た『修羅』は、公開時に見ているが、今回見ても良い作品とは思えない。残酷シーンのみが印象に残る、気分の良くない作品である。
なんでこんなものを松本が作ったのか、疑問に思ったものだ。
こうした言わば通俗的ドラマは、松本の資質に一番遠いものだが、そこにも手を出したくなるのが、優等生たる松本俊夫なのだろう。