1968年に公開された神代辰巳監督デビュー作品。
公開時にまったく理解できなかったが、今回見て圧倒された。
ドキュメンタリーのような斬新な映像と演技、関西の下層庶民の生き方のせちがなさ、それに反しポツプなボサノバ風の音楽など、ちぐはぐと言えば、きわめて破格な斬新さに意味が全く分からなかったのだろう。
約40年ぶりに見て、これはすごい作品だと感心した。
神代のスタイルは、このときに、すでに完成されていたのだ。
だが、これは興行的に不振で、以後4年間神代は干される。
だが、併映が磯見忠彦監督の『ネオン太平記』という大阪のピンク・サロンを舞台の喜劇で、これも「関西味」が強く結構面白かったが、東京では受けようがなかったのだ。
ともかく両作品とも、モノクロだったのだから、ひどい。
3年後には、日活はロマンポルノになる。
中年ストリッパー丹波志津の娘の殿岡ハツエが、名古屋から関西に来て、ダンサーとして売り出し、最後はピンク映画女優になる「男性遍歴もの」である。
名古屋のチンピラやくざ、振付師、演出家、そしてルポライターという具合。
遍歴ものは、神代も助監督でいた松竹の得意芸で、嵯峨三智子主演の『裸体』『こつまなんきん』等がある。
多分彼は、それを思い切りモダンに、新しい手法で撮ろうとしたのだろう。
デキとしては、イギリスのジョン・シュレシンジャー(『真夜中のカーボーイ』の監督)監督、ジュリー・クリスティー主演の映画『ダーリング』のようなアイロニカルな作品になっている。
ともかく、中身の皮肉さがすごい。
最後、週刊誌に初恋の人と語った名古屋のチンピラやくざが大阪の殿岡に会いに来る。
「あんたのことではない」と否定する殿岡は、チンピラにナイフで刺され、救急車で運ばれる。
だが、逃げたチンピラも、街頭で包囲した警官の拳銃に撃たれ、チンピラも同じ救急車に収容される。
「けったいな具合やな」
そして、殿岡は、意識を失っている彼に向かい、「将来は一緒に店でも持とう」と語りかける。
なんとも浮遊しているというか、有為転変の激しい、定まりのない人生なのだ。
「日本の下層の庶民は、こんのように不安定なもの」という神代の透徹した目がすごい。
役者は、殿岡の他、チンピラやくざがロマンポルノにも出た市村博以外知らない連中ばかり。
日活の大部屋だろうか。
真鍋理一郎の音楽が多少合っていない気もした。黛だったら、また感じは変わっただろうか。
シネマ・ヴェーラ渋谷 「神代辰巳特集」