『雲がちぎれるとき』

神保町シアターの佐田啓二特集。
原作は高知出身の田宮虎彦、脚本は新藤兼人、監督は五所平之助、音楽は松竹作品は珍しい池野成。
松竹京都で、半ば独立プロ的作品である。
主演は、佐田啓二と有馬稲子。
幼馴染で恋仲となる二人だが、医者の旧家が没落して大阪に行く有馬稲子。
有馬は、戦後大阪で日系二世の将校仲代達矢と結ばれ子も生むが、仲代は朝鮮戦争で死んでしまい、その後は仲代の上司だった渡辺文雄のものになる。
有馬稲子を追って大阪に出た佐田は、さんざ探しまわって有馬と再会し、一緒になる。だが、ある日突然有馬は佐田の元を去ってしまう。
失意の中で、中村市に戻った佐田は、路線バスの運転手になる。

数年後、有馬が中村に戻ってくる。
死んだ子の墓を作るのだと言う。
佐田は、有馬への思慕を断ち切れず運転が荒れたりするが、最後は有馬は中村を去り、佐田も若い車掌の倍賞千恵子に求婚する。
中村から清水に行く難所に新たにトンネルが出来るという前日、二人は夜に最後のバスを運転するが、バイクの飛び出しを避けそこなって、崖下に転落してしまう。
佐田は、倍賞を抱いて守って死ぬが、倍賞は生き残る。

五所監督は、「映画は台詞までが大事で、台詞が始まったら何もできはない」とのことで、役者が台詞を言うまでの感情の段取りが実に上手い。
有馬稲子とは、『わが愛』もやっていて、有馬は五所監督を全面的に信頼しており、実に生き生きと、また大変自然に軽く演じている。
この人は、大根役者という評が多いが、そんなことはない上手い女優である。
この
これは五所監督得意のメロドラマだが、それを男と女の本質的なすれ違いにまで高めている五所はさすが。
ラテンを使っている池野成の音楽も良い。

この作品の前に、戦後甲府で道路工夫として貧しくも真面目に生きていく佐田啓二・高峰秀子夫妻を描く『二人で歩いた幾春秋』も見た。
こういう映画を、今回落選、あるいはすでに表舞台から退場した小泉チルドレン等のばか者に見せたいと思う。
「金を儲けるのがなぜいけない、金で買えないものはない」等々の暴言のホリエモンに是非見せたい映画だった。

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