『正午(まひる)なり』

プロ野球の世界で、デビュー戦が最高だった選手がいる。初打席ホームランとか初登板勝利など。
ホームランで有名なのは、巨人、横浜の駒田で、初登板勝利では阪神の村山が知られているが、中日の投手近藤などは初登板の巨人戦でノーヒットノーランを記録したが、その後は怪我もありさっぱりだった。
確か、投手で初登板で勝利したが、200勝以上をあげたのは、村山だけだったはずだ。
デビューですごい記録をするとは、勿論才能があったわけだが、プロの世界で良い記録を残すには、その後の精進や努力が必要なことを意味するのだ。

さて、映画監督でも、第一作が大好評だったと言うのはいる。
長谷川和彦である。『青春の殺人者』は、確かによく出来ていて、その次の『太陽を盗んだ者』と続いたが、その後は全くできないようだ。

さて、後藤幸一は、二作目の『不良少年』を見て、ひどいと思っていたが、日本映画専門チャンネルで、デビュー作『正午なり』を見るとそれほど悪くない。
デビュー戦でホームランとは言えないが、ヒットくらいであろう。
だが、『不良少年』は、ひどくだるい映画だったし、最新作『新・雪国』は、日本映画史上に残る愚作だった。
3作目の『パイレーツによろしく』は、真面目な後藤監督に似合わない、流行の風俗を追った映画だったらしく、失敗作だったようだ。

彼の作品で、なんと言ってもすごいのは、『新・雪国』である。
作家の笹倉明が、新潟の連中と「村興し」の企画を考えている内に、川端の名作にあやかり新作を書き、それを映画化することになる。
だが、金なし、知恵なし、組織なしで、制作は何度も挫折し、どん底まで笹倉は追い詰められ、最後はスタッフのスト・反乱、ストーカー騒ぎまで起きる。
彼のドキュメント『「新・雪国」物語』に書いてある話だが、本当に映画より、この裏話の方がドラマがあり、比較できないほど面白い。

さて、後藤幸一監督は、真面目で映像派なのだが、思想性が薄いようだ。
多分、そこが弱点だろう。
作品にパンチやひねりがないのは、その性だろうと思う。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする