『解体タイタス ローマの没落』

今年は、日本・ドナウ交流年だそうで、ルーマニアからブランドン劇場が来て、公演を行った。
元は、シェークスピアの『タイタス・アンドロニカス』だが、それをハイナー・ミューラーが脚色したもの。
上演時間約2時間半なので、かなり短くしているのだろう。
この劇は、シェークスピアの中で、最も殺戮と暴力に満ちていると言われている復讐劇だが、見ていてほとんど劇に入ることが出来なかった。
理由は、字幕の位置にあった。
ルーマニア語なので、当然台詞には字幕が付く。
だが、その位置が、劇場の一文字(額縁の水平部分)のところなのだ。
しかも、かなり上の方に文字が出るので、席がかなり前だったため、1幕目は顔を上げて字幕を読み、下げて役者の芝居を見るという具合で、とても演劇鑑賞というものではなかった。
それに懲りて、2幕目は相当後ろの席に変わったが、それでも目を上下しないと劇の意味が判らない。
こんな状態では、とても芝居の良さも意味を判らずで終わってしまった。
完全な主催者のミスである。

だが、ルーマニアの役者は堂々としていて大変上手いと思った。
そして、1990年代の東欧の旧社会主義圏の民主化の中で、唯一ルーマニアのみが、独裁者チャウシェスク一族の殲滅と言う、血と暴力を経験した国だった。
それは、西ヨーロッパから見れば、「未開の」野蛮な民族と言うことになるが、一方で言えば、情熱的、激情的な人間臭い社会と言うことになる。
その意味では、最も暴力的で、残虐性の匂いが強い『タイタス・アンドロニカス』を上演するのは、極めてふさわしいことなのかも知れない。
新宿紀伊国屋サザン・シアター

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