昭和16年11月末に公開された、衣笠貞之助監督、長谷川一夫主演作品。16年11月と言うことは、12月8日のハワイ真珠湾攻撃の時に上映されていた作品である。
話は、勿論上杉謙信と武田信玄の川中島の戦いを描くもの。
だが、面白いのは、上杉謙信は市川猿之助(先代)、武田信玄は大河内伝次郎で、主役の長谷川は、上杉勢の一番下の身分の車引き人夫であること。共演の山田五十鈴も、旅芸人一座の女優。
つまり偉い人から見た戦国絵巻ではなく、下から見た川中島である。
車引きなので、荷物を積んで隊列の後を付いて行くシーンが続くことになる。
この辺は、戦後は「むしろ反戦映画ではないか」と言われている田坂具隆監督の『土と兵隊』等の、延々と中国の大地の泥濘を進んで行く映画によく似ている。
勿論、謙信が、信玄勢に疫病が出て、戦闘能力が落ちても攻めないとか、
謙信方から信玄へと寝返り、内報した月形龍之介を「足軽にも劣る奴!」と相手にしない等の立派さ、正義が謳われているが。
そして、1時間半を過ぎてやっと戦闘に入るが、よく分からないままに引き分けで終わる。
そして、長谷川一夫の死体を山田が発見する。
これは、戦意高揚映画というよりは、むしろ反戦的な作品のように見えた。
これは、大変なスケールで撮影されたので有名であるが、音楽も山田耕筰で、途中に旅芸人たちと村人が踊るシーンの音楽は面白い。
黒澤明の『七人の侍』の最後の村の田植えシーンの音楽にとてもよく似ている。勿論、田植え歌を元にすれば、そうなるのだろうが。
作品の出来は良くないが、人と馬の投入された量から言えば、黒澤の『影武者』など、一桁低いと言えるだろう。
東宝は、当時軍部から教材映画、すなはち武器操作法等のマニュアル映画を受注し、アニメーションのフィルム使用量を多く見積もり、割り当てフィルム量を増やし、アニメーションのNGは、ほとんどないので、余った分を『川中島合戦』や『阿片戦争』等の大作に当てたそうだ。
製作日数も非常にかかり、
スタッフからは「川中島ではなく、なかなか島」だという台詞も出たそうだ。
でも、見る価値はある作品だと思う。
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