『赤い鳥逃げた』

何を隠そう藤田敏八の映画は好きだったが、一番好きだったのが、『赤い鳥逃げた』である。
藤田と言えば、『八月の濡れた砂』と来るが、あれは日活最後で、スタッフが総力を結集しており、藤田の実力以上の作品だと思う。
私のノートを見ると、この『赤い鳥逃げた』は、1973年2月末に見ている。
今はない横浜東宝で、多分土曜日の午後、見に行ったが、澤田幸弘監督、石原裕次郎主演の『反逆の報酬』との併映だったが、館内は誠にガラガラだった。

今回、37年ぶりに見直して、当時一番引かれたのは音楽であることを再確認した。
樋口康彦の音楽は最高で、すぐに『赤い鳥逃げた』と『愛情砂漠』がカップリングになったシングル盤を買ったくらいだ。
当時、サウンドトラック盤のカセットも出て、「買おうか買うまいか」さんざ迷って買わず、ずっと後悔していたが、今はCDで持っている。

藤田敏八の映画は、べケットの『ゴドーを待ちながら』だと言うのが、私の説である。
彼の作品は、当初どうでも良い描写が続き、ドラマはなく、取りとめなく、筋が展開する。
そのどうでも良いことで、目先を変え、見るものを退屈させない手腕は大したものだと思う。
そして、最後に破局が突然来る。
勿論、べケットに破局はないが、それは映画と芝居の違いである。
原田芳雄の演技は、よく見ると結構細かく演技していることが分かる。
桃井かおり、大門正明は、役者としては素人同然だが、よく原田がリードしている。
このシナリオは、ジェームス三木と藤田敏八だが、役者の柄にあわせて書いている。
フーテン娘の桃井が実は、医者で大金持ち内田朝雄の娘など、桃井自身そのものである。

最後、3人は、自爆してしまうが、ここはやはり前年に起きた浅間山荘事件と関係あるのだろうか。
昔見たときは、そんなことは全く感じなかったが、今回見て結構真面目に時代や社会を反映させているように思えた。
うべて
渋谷の歩行者天国で、赤い鳥を飛ばしていた物売りの男が山谷初男、同じく路上で枯葉をばら撒いていたのが伊佐山ひろ子、刑事が青木義朗、道路上で大門をボコボコにするヤクザの一人に、後に児玉誉志夫邸に飛行機で突っ込んで死んだ霜野相一郎が見えた。
すべて旧日活の連中である。
渋谷が何度も出てくるが、道路にアーケードが付いていた。まだ、戦後的状況だったのだ。
シネマヴェーラ渋谷

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする