『風の視線』

1963年、松竹大船映画、原作は松本清張で、脚本は楠田芳子、監督は川頭義郎である。
新進写真家の園井啓介は、岩下志麻と結婚して、新婚旅行に全部が雪景色の青森の十三潟に来ている。
ここがまず不思議で、なぜこんなところに来たのかが不明、さらにそこで偶然に死体を発見し、それを園井はカメラで撮影する。この死人の件は、実はまったく筋とは無関係で、これも驚く。

そして、園井は、岩下を連れて宮城の松島に行き、ある旅館で、知り合いの女性の高級な草履に気づく。すごい感なのだ、園井は。それは、園井が慕っていた、ある富豪の妻の新珠三千代なのだが、これもまた不思議。
新珠は、戦前は侯爵だった家で、現在は貿易の幹部の妻で、夫はなかなか出てこないが、山内明で、これが大変に嫌味な人間。
だが、その母、つまり義母は毛利菊枝で、盲目だがすべてを見通していて、実の娘が家に来ては、金目の骨董品を持ち去っているのも知っていて、実に不気味。この変な作品で、唯一見どころと言えば、このすべてを見通している毛利菊枝の姿にしかない。

園井の写真が、作品展で大変に評価され、とくに新聞社部長の佐田啓二に激賞される。
実は、この佐田と新珠はつきあっているのだが、この時代で、性交渉はなかったことが後で分かる。
園井と岩下の新婚生活は破綻していて、その理由は、実はタイピストだった岩下は、会社の上司だった山内の女であったことがあり、さらに園井は、新珠が好きなのだから、破綻も当然である。
ついには、岩下は園井との家を出て、銀座のバーで働く始末。

そこにシンガポールに行っていた山内がやっと帰国してくるが、じつに不愉快な男にされている。
ホテルに来た岩下を抱こうとして拒否され、やっと岩下も、山内のひどさに気づく始末。
妻に去られて園井は、荒れて仕事もだめになる。

最後、なんと密輸で山内は逮捕され、そのショックで毛利も死に、新珠は自由の身になる。
そして、半ば志願して「島流し」のごとく佐渡に行っていた佐田のところに新珠がやって来て、園井と岩下も、もう一度やり直そうと誓いあって終わる。
いったい、これはなんだと思う。
サスペンスや推理劇は上手いが、メロドラマの原作は、松本清張の「ニン」ではないということだろうか。

実に不思議な映画だった。

衛星劇場

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