渡辺文樹の最新作『三島由紀夫』と『赤報隊』を見た。
相変わらずのトンデモ映画だが、会場の警備には驚く。
日曜日の夜、鎌倉街道を戻ると、荒っぽいポスター板が乱雑に電柱に巻かれている。
「もしかして、渡辺文樹では・・・」とネットで調べると、大和市生涯学習センターで2月23日夜にやるとのこと。
大和市は、大和朝廷のシャレか。
会場に行くと、神奈川県警の機動隊、刑事が50人以上もいる。
「こりゃ入れないのか」と一瞬思うが、会場に向かうと機動隊は親切に列を空けて入れてくれる。
大袈裟な警備は、渡辺にではなく、右翼の街宣活動に向けたもの。
5時を過ぎると、2台の街戦車が来て、渡辺弾劾を叫ぶ。
過激派が壊滅し、ソ連・中国の仮想敵国もなくなり、県警警備課もお暇な今日、右翼は貴重なお相手、自分たちの存在価値、お仕事を保障してくれるお客様なのだ。
映画は、なんと3時間半を越すもので、そのひどさには唖然とする。
かつて小林旭は、無意識過剰と言われたが、渡辺は無神経過剰である。
物語は、「ヘェ戦後史って、こうだったの?」と新たに知って驚くトンデモ物語だが、撮影技術がすごい。
画面がピンボケで始まり、数秒後にピントを合わせるのだから凄い。フィルムを節約しているのか。きちんと編集すれば、3時間以内にはなるだろう。
台詞のとちりをそのまま流すなど、この映画全体は、テレビでよくやる「NG特集号」みたいなものである。
1980年、住友銀行に渡辺文弥(渡辺自身)が入社する。
頭取の磯田一郎が、顧問に採用したのは渡辺の経歴故だった。
戦時中の陸軍から、戦後の松川事件等の謀略、保安隊・自衛隊の創設での活躍、さらには三島由紀夫事件への関与など、戦後史はすべて渡辺の関与、背後での暗躍によって起こったことなのだ。『不毛地帯』の瀬島龍三を基にしているのだろうが、年代が滅茶苦茶であるが、そんなことを気にしていたら、渡辺映画は見られない。
「ヘエー、そうだったの、ちっとも知らなかったな」とまず驚く。
その詳しい関係は、つまらなくて眠っていたので、よく分からない。
多分、分かっても結果は同じだろう。
二部、と言うより続きの『赤報隊』は、朝日新聞神戸支局襲撃事件の裏話である。
ここに、住友銀行による神戸の屏風地区の買収事件が絡んでいたとは初めて聞いた。
そして、1、2部を貫くのは、住友銀行による沖縄馬毛島のレーダー基地建設をめぐる日米、日本国内の他社との競争だが、これもほとんどトンデモ話。
だが、細かいことを言ってはいけない。
自衛隊へのレーダー計画の売り込みをやっている渡辺は、当然東京に住んでいて、彼の自衛隊内部の協力・通報者で、自殺する2佐が東京の渡辺の家に来て、福島に戻るとき、東京のどこかで渡辺らと駅で別れて電車に乗る。
だが、改札の上には「次は福島駅」のプレートがあるのだから、東京ではなく福島でロケしたことがモロばれ。
この渡辺文樹の演技の迫力、拙劣さ、これは主演男優賞ものである。
でも、戦後史の事件の裏に住友の暗躍があったとしても、瀬島龍三も入ったのは住友商事で、住友銀行ではない。
都市銀行が自衛隊のレーダー商戦に介入するなど、お門違いと言う他はないが、そんなことを言うのは野暮と言うものである。
これは、夜店の叩き売りの、焼けた工場から持って来た、従業員が退職金代わりに貰った、ドロの中に埋まっている万年筆の類のようなものなのだから。
言わば、インチキの啖呵買を楽しめばよいのであるが、渡辺も少々パワーが落ちたのではないかと思った。