『アンデスの花嫁』

黄金町のシネマ・ジャックでは、「みらい世紀ブラジル」のイベントが行われていて、映像作家岡村淳氏の作品が上映されているが、日本で唯一南米を舞台にした劇映画である、1966年羽仁進監督の『アンデスの花嫁』が上映された。

ボリビアの奥地に生活苦から中年女性の左幸子が、日系人上田に嫁いで来る。
そこは、白人に蔑視されるインディオからも差別されている山の民で、一種の被差別民である。
彼らは、インカの遺跡と共に生き、それを誇りにしている。
この辺は、日本の被差別部落の多くが、その出自をなになに天皇や親王に求めているのと類似している。
インディオは、もともと氷河期、ベーリング海峡が地続きだった頃にマンモス等を求めてユーラシアからアメリカ大陸に渡ってきたモンゴロイドの末裔なのだから、当然かもしれない。

そこは極貧で、農業もろくに出来ず、ランプ暮らし、水道もない。
農業指導とのことだが、上田は実は遺跡の発掘をしていて、そこから出土した物を売った金で村に水を引き、農業を確立しようとしている。
左は、町に出土品を売りに行き逮捕され、そこで上田の父が、日本の敗戦時に日系人社会で金銭トラブルを起こし追放されたことを知る。
日本の敗戦時に、南米の日系人社会で、開拓民が営々として貯めた現地通貨を、「日本が勝利したから」と無価値になった円に交換させて大儲けした悪人がいたことは、ブラジルの歴史に出てくるが、ボリビアでも多分そうしたことがあったのだろう。
上田は、言わば父の行為の贖罪のように黙々と遺跡を掘る。そして、黄金の遺物を掘り当てるが、崩れてきた岩の下敷きになり死ぬ。
遺物が博物館に引き取られるのと引き換えに、村に灌漑施設が出来ること、左は村で日用品店をやっていくことが示唆されて終わる。

例によって、プロの俳優は、左幸子と胡椒農場で成功している青年の高橋幸治のみ、他はすべて現地の人間である。
誠にユニークな羽仁進作品の一つで、渥美清がタンザニアに行った『ブワナ・トシの歌』と同じ系列の映画である。

しかし、左幸子はすごい。
彼女は内田吐夢の『飢餓海峡』や今村昌平の『にっぽん昆虫記』等の大作でも体当たりの名演技を見せたが、ここでも女優の枠を超えた演技を見せている。
いかに監督であり、夫である羽仁進の才能に心酔していたか、という事だろう。
だが、左は裏切られる。
羽仁進が、左の実の妹・額村喜美子と関係していたのだ。
また、もともと羽仁にホモセクシュアルな傾向があることは、『不良少年』や『初恋地獄編』でも明らかだろう。

だが、彼女は田中絹代に次ぎ、日本で二番目の女優から映画を監督した女性になる。
国労映画『遠い一本の道』である。
彼女は、田中絹代ではなく、お母さん女優と言われた望月優子の系列と言えるかもしれない。
では、左の後継者は誰だろうか。
大竹しのぶしかいないだろう。
音楽が、いつも武満徹ではなく、林光なので、多少感じが違っていた。

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コメント

  1. ちゃい より:

    Unknown
    偉大な女優を愛せるだけの度量が、夫にはなかったということでしょうか。

  2. さすらい日乗 より:

    確かにすごかったそうです
    左幸子のパワーは猛烈で、白坂依志夫も到底ついていけず、付き合うのをやめたそうですが。

    所詮は、羽仁進という良家のお坊ちゃんとは合わなかったのではないでしょうか。