高峰秀子、死す


昨年の暮に高峰秀子が死んだ。
86歳は、勿論若くはないが、原節子、山田五十鈴や森光子らが生きていることを考えると早いのだろうか。
肺ガンとのことなので、やはりタバコの性か。

日本映画史上、最高の女優の一人であることは誰もが認めるところだろう。
インテリや金持ちのご令嬢から、ほとんど娼婦に至るまで、どんな女でも演じた。
田中絹代も何でも演じたが、上流階級やインテリ女性は、少々おかしな感じがした。
田中の場合は、溝口健二の『山椒太夫』の、最後は盲目の娼婦に落ちぶれながらも、我が子をいとおしむ母親が一番だったと思う。
田中は、日本のお母さん女優としては最高だったと思う。

高峰が亡くなり、成瀬巳喜男の『浮雲』を改めて見て、最初に並木座で見たときの記録を見たら、私は41歳だった。
思えば良い時に見たと思う。もっと若いときでは、到底あの映画のすごさは理解できなかっただろう。
高峰秀子と森雅之の腐れ縁は、本当にすごい。
森が、いちいち皮肉を言うのが、逆に高峰への強い執着を見せている。
この二人のつながりは、肉体のつながりそのもので、監督の成瀬も、「この二人は余ほどあれが上手くいっていたんだろうね」と言っていたそうである。神代辰巳の名作『赤い髪の女』とほぼ同じようなものだろう。

だが、私は高峰秀子の最高作品は、豊田四郎監督、芥川比呂志、東野英治郎らと共演した森鴎外原作、成沢昌成脚本の『雁』だと思う。
そして、この金貸しの妾高峰が演じるお玉の自立への志向と、あえなく消えるはかなさは、その直前に豊田四郎もその一員だった、東宝の大争議の高揚と挫折ではないか、と私は思っているのである。、
日本映画、あるいは日本の芸能界に二度と出ないであろう大女優のご冥福を心からお祈りする。

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