オリンピックは面白いのだが、テレビ局が押し付けるお涙頂戴のドラマが不快で、本当のドラマを見る。
映画は、1958年に大映が作った大作である。
シネマスコープが始まった時、「大画面には偉大な人の物語が相応しい」とのことで、キリストを描いた『聖衣』が作られたように、永田雅一が信仰する日蓮宗の開祖日蓮の生涯を描くもの。
脚本は、八尋不二で、監督は渡辺邦男大先生であり、私はこの渡辺邦男が好きで、一般に非常に評価されるマキノ雅弘と同列、むしろ上ではないかとさえ思っている。
長年の比叡山での修行から日蓮が故郷の千葉に戻り、自分の宗派を開くところから始まる。
彼は、釈迦の教えでは、最後の法華経が一番重要で、他は無意味と、天台・真言をはじめ、浄土教などの既成の宗教を強く批判、排撃する。
鎌倉幕府と癒着している各宗派は、幕府に要請して日蓮を迫害させる。また、幕府批判を辻説法などで繰り返す日蓮を様々に迫害する。
そのクライマックスが、龍ノ口での首切りだが、首切り役人の刀に落雷し、命を逃れる。
役人は、田崎潤で、この撮影では、刀に電気を流したとのことで、田崎は感電してしまい、本当にのたうち廻ったので、渡辺先生は大喜びでOKしたそうだ。
因みに、昔『シャボン玉ホリディ―』で、なべおさみと小松政夫が演じていた「キントト映画」の監督は、この渡辺邦男先生のことであり、彼は撮影中、映画の中に入ってしまい興奮するので有名だったそうだ。
ある映画で、風呂場のシーンがあり、彼は撮影中に次第に興奮して前に出てしまい、「カット!」と叫んだ途端にお湯に落ちてしまったとの話もある。
長谷川一夫の日蓮は、酒も煙草も女もやらなかった、非常にまじめなこの人によく合っていると思う。
また、脇役も豪華で、北条時宗は市川雷蔵、勝新太郎は日蓮の弟子の一人。途中で子坊主がいい役をやっているので、なぜかと思うと成人して日朗上人になり、林成年が演じる。
渡辺監督は、重要なシーンになると中心人物にトラックアップして劇を盛り上げる。
非常に簡単な方法だが、わかりやすくて上手い演出法だと私思う。変に庶民主義が出てくるマキノ雅弘よりも、そうしたところがない分、渡辺邦男の方が私は好きである。
衛星劇場