『ほととぎすほととぎす』

『ほととぎす』とは、明治時代のベストセラー小説、徳富蘆花の『不如帰』のことで、それを元に1980年に宮本研によって書かれた戯曲である。

「なぜ人間は死ぬのでしょう、私は千年でも万年でも生きたいわ」
という主人公浪子の名台詞は、大変有名だった。
またこの新派悲劇が、大山巌元帥の家のことをモデルにしていることも、昔は誰でも知っていることだったらしい。
私事で恐縮だが、普通の主婦だった明治生まれの無学な私の母親も、「ほいととぎスは、大山元帥一家のことだ」とよく言っていたくらいである。
この『不如帰』は、新派の他、サイレント時代は、17回も映画化されているが、トーキーになってからは、1958年の新東宝の土居通芳監督の『不如帰』のみである。
やはりサイレント時代活弁だった新東宝社長の大蔵貢の思いだったのだろうか。

この劇は、そうしたモデル話が実は違うぞ、と言うのが一つのテーマである。
小説の継子苛めや嫁姑の対立等は事実ではないことが、登場人物の証言で明らかにされる。
また、大山巌(山野史人)と妻の捨松(魏京子)は、共に海外留学の経験がある、欧米風の家庭だった。
いつもの通り宮本研の語り口は上手く、笑いがはじけていた。
ただ、この笑いは、言わば楽屋落ち的笑であるのは、少々問題にも思えたが。

最後、多くの恨みを残しながら無数に死んでいった人々を象徴する墓地の中から、妻が現れ、夫の大山を追及する。
歴史は、巨大な恨み言でできている、言ったのは誰だっただっけね。
青年座は、山岡久乃、東恵美子、初井言栄の3人の女優がいて、「おばさん劇団」と言われた。
だが、今や3人もすべて亡くなられた。
だが、高畑淳子を代表に、今も女優陣が豊富で、ここでも魏京子の他、高橋幸子、片岡富枝、黒崎照、野々村のんと良い女優が出ていた。
青年座劇場

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