『昆虫大戦争』

映画界では、「これは本気なのか、あるいは冗談なのか」分からないような作品が、突然として作られ公開されることがある。
1968年に松竹で製作された二本松嘉端監督の『昆虫大戦争』も、そうした作品の一つだろう。

南島で昆虫を採取している研究者川津祐介は、恋人の新藤恵美のある身だが、白人女と海岸で戯れている。
子供向け怪獣映画では、子供を連れてくる親父のために水着女優が出てくるが、ここもお約束の白人女優のビキニ姿。
と、空を飛ぶ米軍の爆撃機が空中爆発し、4本のパラシュートが落ちてくる。
飛行機の中では、黒人兵のチコ・ローランドがおかしな昆虫に食われ、さらに雲のような昆虫の群に囲まれ、飛行機が無理やりに突っ込んだので、エンジンに入り爆発したのだった。

島にはなぜかホテルがあり、新藤恵美はそこのメイド、中年マネージャーの市村俊幸のセク・ハラ攻撃の対象になっている。
東京の昆虫研究所の研究者園井啓介のところに、川津から送られてきた猛毒を持った昆虫のサンプルを分析すると「これは大変な昆虫だ」と、彼も島に来る。
この島では、激烈な戦争があったとのことなので、硫黄島のことだろうが、人類の手の入らない自然が残されているとのことなので、小笠原諸島のようにも思えるが、要は南の孤島である。

その頃、行方不明になった爆撃機の捜索で、島に米軍兵がやって来る。
チコ・ローランドを初め、米軍兵や水着美女の外人など、全員が吹き替えで、日本語を話すが、この時期はそんなものだった。

いろいろとあるが、なんと市村俊幸らは、実は東側のスパイで、水着美女も、家族全員がアウシュビッツで虐殺された復讐に、西側のみならず人類の滅亡を望んでいて、猛毒を昆虫に入れ、猛毒昆虫を作り、世界中に放そうとしているのだった。
彼女と対決した正義の味方の学者の園井啓介は叫ぶ
「お前は毒虫のような奴だ!」
場内大爆笑。

監督の二本松嘉端氏は、名前の通り福島の二本松氏の末裔で、アメリカにも映画留学したエリートで、松竹らしからぬスマートさととぼけたユーモアがある。
だが、なんと言っても松竹大船である、ひどくけち臭く、しょぼく、またこの非常時に日本の警察も駐在しか出てこないなど、自衛隊等の権力には無縁なのである。
最後の結末については書かないが、これまた本気なのか、冗談なのかよく分からないものだった。
松竹大船でよくこんなものが作れたものだと思うが、1960年代後半はそれだけ松竹の路線が大混乱していたと言うことである。
この混乱は1969年秋、渥美清の『男はつらいよ』の大ヒットまで続くのである。
フィルムセンター

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