寺山修司作、蜷川幸雄演出の『身毒丸』は、節談説教の『信徳丸』を元にしている。
説教の『信徳丸』は、文楽や歌舞伎の「玉手御前」にもなったもので、母親が子を愛してしまう悲劇を描いている。
『玉手御前』では、実は義理の息子の俊徳丸を救うための、ニセの恋いかけとなっているが、母と義理とは言え息子への禁断の愛であることに変わりはない。
さて、この劇でも母親の大竹しのぶと息子にされた矢野聖人との恋になっているが、全体は寺山的詩劇であり、家族をめぐる様々なイメージが展開されている。最も現在の脚本は、元の寺山のものを岸田理生が改訂したもので、かなり元とは異なるそうだが。私は、岸田ら女性劇作家の女の生理を押し出した劇は苦手なので、その分はついていけないのだが。
全体は、サーカス、見世物芸人、女相撲等を出し、きわめて寺山的で、いつもは戯曲の世界を腕力でねじ伏せる演出が多い蜷川だが、ここでは寺山修司を尊重して、あまりいじっていないようだ。
宮川彬良の音楽は、浪花節等を多用し、日本的な情緒に上手くロックをのせている。
今まで、白石加代子と武田真治、藤原竜也で演じられてきたそうだが、今回の大竹しのぶも、さすがにすごい。
母と子の禁断の愛や、その逆の義理の子供への殺人は、大竹しのぶは、『王女メディア』でも演じてきていた。
新人の矢野聖人は、そつなく演じていたが、それ以上のものは感じられなかった。
父親の六平直政、屋台の物売り夫婦の石井一、蘭妖子が、かつてのアングラらしい雰囲気に乗っていた。
天王洲・銀河劇場