『花の渡り鳥』

吉野山に行く前に見た、長谷川一夫主演の股旅ものの1956年正月公開の傑作、「全盛期の長谷川作品って、こんなに面白かったのか」と大変感心した。

ヤクザの出入りの罪で、島送りになっていた長谷川は、御赦免になり恋女房に会おうと3年ぶりに故郷の佐原に戻って行く。
その道中で、スリの木暮実千代に惚れられ、子分の勝新太郎も着いてくる。
だが、恋女房の清水谷薫は、長谷川の親友でヤクザの足を洗って正業に付いていた市川雷蔵と所帯を持っていた。
そこは、悪い親分の柳永次郎が支配していて、雷蔵らも迫害している。
勿論、最後は長谷川、雷蔵、そして勝や木暮らによる立ち回りで、柳らの悪の一味は倒され、ハッピー・エンド。
主題歌に乗って長谷川は、旅に出てゆく。

話が実によく出来ているので、誰かと思うと『座頭市』生みの親の名脚本家犬塚稔、監督の田坂勝彦は、名監督田坂具隆の弟で、娯楽映画専門だが、大変撮り方が上手く、編集のリズムもとても良い。
木暮実千代や柳永次郎らの典型的な役柄をツボにはまった演技でこなしているのは、さすがである。

長谷川一夫の演技は、歩く、止まる、台詞を言う、ポーズを取る、そのすべてが踊り、振り付けであることに改めて関心した。
これだけサマが美しい役者もいないだろう。
長谷川と同格の相手役を与えられている雷蔵に比べ、勝新太郎の喜劇的な役は、実にダサくて垢抜けない。

この傑作の唯一の欠点は、長谷川、雷蔵と三角関係になる清水谷薫がド下手なこと。
長谷川は、相手女優の演技指導をよく行い、監督とトラブルになったそうだが、ここではさすがの長谷川も上手く指導できなかったのだろう。
フィルム・センター

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