『ベオグラード1999』『田中さんはラジオ体操をしない』

映像作家金子遊が作った旧作の上映会があるというので、渋谷のアップリンクに行く。
この『ベオグラード1999』は、彼の恋人だった女性は、一水会事務局にいたが、突如自殺してしまったため、金子はその理由を探る意図もあり、一水会の木村三浩が旧ユーゴのベオグラードに行く旅に一緒に行くことにする。

言って見れば、センチメンタル・ジャーニーであるが、そうした感傷性は一切なく、事実が淡々と描かれる。
まず、新右翼と言われる一水会の日常活動が描かれる。
当時は、アメリカによるイラク制裁爆撃が行われていたが、彼らはそれに対して反対し、虎ノ門のアメリカ大使館に抗議行動を起こし、警官隊と衝突する。
その抗議の仕方は、多分に新左翼的であり、どこか既成の右翼のそれとは異なっているが、活動家は従来の戦闘服の街宣車右翼の男のように見える。
上映の後のトークショーに出た、前一水会代表の鈴木邦男の言葉によれば、「新右翼は新左翼運動の影響を受けているのが特徴」だそうである。
金子の恋人は、ロック・ミュージシャンでもあり、イラクの「バビロン音楽祭」にも出たのだそうだが、そんなものがあるとは知らなかった。

感想を言えば、相当にわかりにくく、特に恋人の部分と木村と一緒に旧ユーゴに行き、主にセルヴィアの政治家と会うところは極めてわかりにくい。
われわれには、旧ユーゴスラヴィアのクロアチアの独立、セルヴィアからコソボに至る紛争は大変わかりにくく、以前BSNHKで放送した『ユーゴの崩壊』は、録画して何回も見ているが、誰が本当に悪いのか、分からない。
勿論、劇映画ではないので、善と悪はいつも明確ではないのは当然だが。

あの番組も西側からのものなので、ミロシェビッチらセルヴィアを悪の根源としているが、果たしてどうか、クロアチアのツジマン元大統領など、相当に問題のある人物のように思えるが。
金子自身も、結論は出せないままに終わったと言っている。
あえて、図式的に言えば、金子も言う、三島由紀夫、江藤淳、見沢知廉、そして金子の恋人ら右翼・保守の人間が自殺を選ぶのは、やはり天皇制と深い関わりがあると私は思う。

戦前の2・26事件の首謀者の一人磯部浅一は、昭和天皇への憤怒を書いているが、実態は近代的な君主だった昭和天皇を勝手に現人神としてしまった戦前の思潮にこそ問題があったというべきだろうか。
それは、言って見れば「勝手に思い込んだ恋愛妄想の患者の心性のようなもの」だと言ったら怒られるだろうか。
戦前の磯部浅一が、昭和天皇に絶望した思いは、戦後においてはもっとひどくなっているのではあるまいか。
現在の天皇陛下が、イギリスに行き、英国王室と親交を深めておられるのを保守、右翼の人は一体どのように思っておられるのだろうか。
現在の日本社会に天皇制が存続していくためには、仕方のないことと思っているのだろうか。

『田中さんはラジオ体操をしない』は、東京多摩の沖電気工場で、日々の操業開始時にラジオ体操をしなかったとして、業務命令違反で解雇され、その不当性を訴え30年間正門前でギターと歌で抗議している田中哲朗さんを描いたドキュメンタリー。
監督はオーストラリア人で、かなり冷静に客観的に田中さんという方のユニークさを描いている。
どうやら田中哲朗さんは、映画のできにきわめて不満らしいが、所詮映画というものはそうしたものであり、被対象者のものではなく、作家のものであるのだから。
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