『熱愛者』

音楽評論家芥川比呂志とインテリア・デザイナー岡田茉莉子の恋を描くメロドラマだが、なんとも不思議なと言うか変な作品。
まじめに作っているので、非常におかしい。

原作は中村真一郎で、大変高踏的な雰囲気の世界である。
芥川は、大学で教える傍ら、音楽評論や翻訳をやっている。
オペラ団にも関係していて、プリマ・ドンナの月丘夢路とは、恋仲でもあるが、もてもてで若手歌手の桑野みゆきとも仲がよく、月丘には嫉妬されている。
その劇団の指揮者が山村聡で、新聞記者伊藤雄之助らと打ち合わせをしていると、新進デザイナーの岡田に何度も会う。
この辺は、一度目の偶然は良いが、二度目、三度目の偶然は許されないという脚本の鉄則があるが、ここで新藤兼人先生は、四度目くらいの偶然を使っている。

そこから芥川と岡田はラブラブになるが、芥川の住む古い屋敷に、雨戸を閉めて愛し合うのだから、これはもう小沼勝の世界である。
しかし、1961年の松竹大船なので、セックスは言葉で説明されるだけ。

勿論、最後二人は別れる。
その理由がよく分らないが、要は岡田が芥川の求める知的な女性ではなかったということだろう。
岡田茉莉子は、同世代の若手デザイナー園井啓介と一緒になる。

この映画は、岡田が原作を気に入ってプロデューサーも務めたものだが、この映画での女性の主人公は、もっと若い女のように思えた。
俳優では、岡田の姉になる乙羽信子が面白かったが、芥川の家から岡田がいなくなって、この乙羽と芥川はどうなったのか心配になった。

芥川の家は古い大きなお屋敷で、廊下が鍵の手についていて、その雨戸を戸袋に収めるとき、角で角度を90度直角に変えられるようになっていた。
「へえ昔の家はうまくできていたんだな」と松竹大船の美術に感心した。
神保町シアター

この映画の後、渋谷に行き、武智鉄二のスキャンダル映画『黒い雪』を見た。
『熱愛者』からたった4年後の作品だったことに唖然とした。
シネマ・ヴェーラ渋谷

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コメント

  1. joshua より:

    やはり、性格の不一致ではなく…
    「性の不一致」による離別を全く性描写なしで映画化するというのは無理がありますね(藁)。ヒロインが最後に、浅黒い肌と膨らんだ鼻梁を持つ、いかにもその方が強そうなw園井啓介に乗り換える辺りは、プロデューサー・岡田茉莉子のキャスティングの妙でしょか。ただ、どこか川上宗薫辺りが書きそうな中間小説的な下世話なストーリーで、なぜ岡田茉莉子が映画化に執着したのかが謎です。

  2. 岡田茉莉子の高級文学趣味では
    この小説の原作者が、中村真一郎だというところに鍵があるように思います。
    当時、中村は、福永武彦らと同様で、従来の日本の小説家とは異なる西欧的、高踏的な雰囲気を持つ作家として尊敬されていましたので。
    実際の文学水準がどの程度のものかは別として。

    この芥川が演じた主人公は、小沼勝の映画にぴったりだと思いますが、嫉妬心がないのがつまらないですね。