日本の歴代の将軍の中で、一番人気があるのは、言うまでもなく乃木希典だろう。
指揮者としての能力については、司馬遼太郎以下、近年では疑問も出されているが、歴史的に見て一番愛された将軍は、間違いなく乃木大将だろう。その理由は、日本人が最も好きな、率直で策を弄さず、正攻法で正門から攻めるという正直さにあったと思う。
勿論、それが戦術として正しかったか否かは別問題だが、そうした態度は、前近代の武士の作法そのものだろう。
井上ひさしの作のこの劇は、1979年に当時小沢昭一がやっていた芸能座に木村光一の演出で行われたものだそうで、今度が最初の再演だそうだ。
明治45年6月に明治天皇が崩御し、7月に大正天皇が践祚した7月30日のその日の赤坂の乃木の厩でのできごと。
3頭の馬が、乃木の青年時代以降を回顧し、議論する劇にされている。
馬から乃木大将を見るというのは、勿論日本人から見た乃木ということだが、ここでの乃木は、様々な不如意や運の悪さから、不運を引き受けてしまう青年である。
そして、西南戦争での軍旗喪失事件は、彼に深い傷跡を残す。
だが、近代日本は、それを軍旗と天皇への絶対化へと巧妙にすり替えていく。
風間杜夫をはじめ、根岸李衣、吉田剛太郎、六平直政、香寿たつきなどの役者も大変見事であった。
埼玉芸術劇場