ラジオの劇場中継について

今、考えるととても不思議だが、昔ラジオの劇場中継というのがあった。
放送劇ではない、実際に芝居をやっている劇をラジオで中継放送するのだ。歌舞伎が多かったと思うが、商業演劇の喜劇などもあったように思う。
歌舞伎は、物語は皆知っているし、また実際の所作も所謂「型」で、誰がどういう風に演じるかはわかっている。だから、劇場からの音声と若干の解説を加えるだけですべては分かったのである。
映画に実際の風景がある。小津安二郎監督の『彼岸花』に出てくる。故郷から親戚の老人(笠知衆)が出てきて、主人公・佐信利信は歌舞伎座に連れて行く、歌舞伎座の芝居を家でラジオで田中絹代が聞くのである。
考えて見れば、野球も相撲もルールややり方を知らない人に言葉で説明しても、理解されるのは難しいだろう。だが、知っている者にとっては、言葉で想像するのは、決して困難ではない。
この劇場中継をするアナウンサーは、大変地位が高かったのだそうだ。高橋博という人がそうで、この人は歌舞伎の中継で有名だったが、さらに皇室関係行事の中継も必ず担当していたのだそうだ。
今でも、NHKの相撲担当の人は、同時に芸能担当でもあるようだ。その型や意味を伝えると言う点では共通するものがあるのだろう。

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