歌手の島倉千代子が死んだ、75歳。肝臓がんだが、前に乳がんにもなっているので、その転移によるものだろうか。
この人ほど、「人生いろいろ」あった歌手も珍しいのではないか。
「この世の花」の大ヒット以来、美空ひばりに次ぐスターとして活躍したが、個人的には阪神の本塁打王にもなった藤本勝巳との結婚と離婚。身内に騙された多額の借財と返済など。
この人の歌唱には、美空ひばりとは多少異なるものがあり、ジャズも上手に歌えたひばりに比べれば、千代子はむしろ日本的な、口説きや泣き節につながる歌手だったと思う。
佐藤忠男さんによれば、1960年頃、日本の不良少年たちが一番愛好するのは、ロックでもジャズでもなく、むせび泣くような島倉千代子の曲だったそうだ。
不良少年たちが、世をすねて生きていながら、心のどこかで求めるのは、やさしい母親の声だったのに違いない。
そのせいか、どうかは知らないが、日本の不良少年、青春映画の傑作に東陽一監督の『サード』があるが、永島敏行が演じるサードの母親は、島倉千代子で、これは適役だった。
高校生になり、大人の肉体になった永島が、風呂場で裸になると、島倉の母親は、
「お母さんだって女だよ」という。
彼女が主題歌を歌った映画には、松竹の『この世の花』9部作が有名だが、『からたち日記』もある。
これは、非常に貧しい家に生まれた女性が、芸者などに売り飛ばされて日本の社会の底辺を生きた実話の映画化で、監督は五所平之助、撮影が宮島義勇で是非見たいと思っている。
回顧上映で、どこかでやらないものだろうか。『この世の花』もCSで見たが、映画館で1950年代の松竹のメロドラマを見るのも面白いと思うのだが。
ともかく、多くの不良少年たちの心を癒したお母さん歌手のご冥福をお祈りする。
これで、SPレコードを吹き込んだ歌手で、今も現役の歌手なのは、小林旭だけになったはずだ。
コメント
探せば
いますよ。
SPレコードを吹き込んだ歌手って三浦洸一さんとか(笑)。
三浦洸一は
まだ、生きていたの!とっくに亡くなられたと思っていました。ご存命おめでとうございました。
ご指摘ありがとうございます
三浦の他、山口淑子、菅原都々子といった方がまだご存命のようですね。
まだいました
少々現役とは言い難いのですが、雪村いずみがご健在ですね。
もう一人、戦前からの童謡歌手で、後に『煙草屋の娘』も歌った平井英子さんは、まだご健在だと聞いたことがあります。