『大地の子守唄』

フィルムセンターの増村保造特集には一度も行っていなかったが、理由はほとんど見て折からだった。
今日は午前中に屏風ヶ浦の医者に行き、いつもの血圧等の薬を貰い、「さてどこに行こうか」とスマートフォンを見る。
フィルムセンターが増村の『大地の子守唄』である。
これは、公開時に黄金町の横浜大勝館で見て以来、見ていないので、久しぶりに宝町に行く。
人が多く、ほぼ満員である。増村の人気か、原田美枝子の胸の性か、それとも行くところがない人間が多いためなのだろうか。
意外にも若い人が多く、列の後ろの人は「理科大生割引です」と言われていた。

この脚本は、白坂依志夫と増村だが、完全に「団子の串刺し」で、構成としては一番単純で、「シナリオ講座」では、第一にしてはならないこととして教えられるものである。
だが、名作が多いのもこの形式で、溝口健二の『西鶴一代女』は、その典型である。
要は、ドラマとしての起伏がないので平板になりやすいからで、最後は役者の演技に依拠することになる。
その点では、この作品の原田美枝子の演技は、最高で、増村保造のしごきによく応え、壮絶な演技を見せている。
この時、彼女はまだ高校生の18歳だったが、高峰秀子と言い、天才は年齢と関係がないことがわかる。

四国の山の中で野生のように育った原田のりんが、おばば賀原夏子の死で一人になり、女衒の手で御手洗島の女郎屋に売られる。
最初は女中だが、もちろん女になって女郎になるのを待っていたのだ。
14歳で、初潮を迎え、客を取らされるが、さらに舟で沖に出て、船員相手に売春をする「おちょろ舟」の漕ぎ手にもなる。

最後は、島周りの牧師岡田英治に救われ、四国を遍路して歩くことになる。
実際に瀬戸内海でロケしたようだが、多分そこにずっといたのは、原田の他、売春宿の灰地順・堀井永子夫婦と女郎たち3人だけだろうと思う。
そして、タイトルの田中絹代から、梶芽衣子、加藤茂雄、佐藤祐介、中川三穂子、岡田英治らを次々に迎えて撮影したのではないかと思う。

先日、今村昌平のそばにいた武邦重夫さんの『愚行の旅』をネットで読み返して今村のすごさにあらためて驚いたが、この『大地の子守唄』を見ると増村保造も凄い。
日本の戦後に現れた映画監督で最高は、やはり今村昌平と増村保造にちがいないだろう。


フィルムセンター

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