『反米大陸』 伊藤千尋(集英社新書)

新聞社で中南米の特派員だった著者のものだけに記述が詳細で、中南米の諸国で、アメリカへの反発から敵対する政権ができていることが書かれている。
なぜ、21世紀に入って、かつてアメリカの裏庭と言われた中南米で、反米主義が起こったのか。
理由は明白、あまりにも露骨なアメリカのご都合主義的な自国優先主義とレーガン・サッチャーリズムの新経済主義の押しつけの失敗である。
ブラジル、アルゼンチン、キューバを先頭に中南米のほとんどの国が、21世紀に入って反米主義になってしまった。
では、なぜアメリカはかくも傲慢で、自国優先主義なのだろうか。

それは、アメリカの成立に拠っている。
48ページの「アメリカの領土拡大」に書かれているが、当初アメリカが独立した時は、東部の13州のみだった。
その後、西部に移住者が増えるにつれて、イギリス領からの割譲(1783)、フランスからのルイジアナ購入(1803)、テキサス共和国の併合(1845)、メキシコからの割譲(1848)などによって、西海岸までの広大な領土になったのである。
メキシコ領だったテキサスとカルフォルニアの割譲が典型的だが、他国の領土だった土地にアメリカ人が移住し、アメリカ人が増えたのとその保護を理由に戦争を仕掛け、勝利の結果自国領にしたのである。
アラモの砦の戦いなのどは、ジョン・ウエインから見れば英雄的戦死だが、メキシコから見れば、メキシコ領強奪の事件に過ぎない。

どこやらイスラエルが、1980年代以降にヨルダン川西岸地区でやっていることによく似ているが、そのお手本は19世紀のアメリカだった。

では、なぜそのように移住者が増えたのだろうか。言うまでもなく世界中からの移民である。
最初はイギリスからの清教徒たち、さらに18世紀からは、ドイツをはじめ東欧やユダヤ人、19世紀後半からはアイルランド、さらに戦後は東欧の共産圏からの亡命者やギリシャ、そして1970年代以降のベトナムなどのアジア人。
それらはよく考えると本国にいられなくなった人たちだった。
宗教的迫害、貧困、飢餓、戦争などで自国にいられなくなった人達だった。
その彼らが、アメリカで成功を収めると先住民を追い出し、さらに今度は他国の人間に被害を与える。
実に被害者が、加害者に変わる歴史の皮肉というべきだろうか。

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