昔、テレビの深夜番組で見てよくわからなかったので、「トリフォー映画祭」を黄金町のシネマ・ジャックがやつているので見に行く。
よく、ヒチコック、ハワード・ホークスらの暗黒ものからの影響が言われるが、むしろ作品としては、小林旭や高橋英樹が演じた日活の暗黒ものように見える。
元々日活のアクション映画も、アメリカ映画のいただきだつたのだから、似ているのも当然なのだが。
高橋英樹の映画に『さすらいのトランペット』というのがあったが、ここでの主人公のカフェのピアノ弾きのシャルル・アズナブールは、元は立派なクラシックのピアニストだった。
だが、兄弟が泥棒でギャングというのだからおかしい。
さらに、カフェの主人と女を巡ってケンカになり、ナイフで刺殺してしまい、兄弟の隠れ家に逃げると、彼らは、ギャングの一味と分け前の争いで銃撃戦になる。
だが、無事に逃れて、殺人も正当防衛が認められ、再びカフェでアズナブールはピアノを沈痛な面持ちで弾くようになる。
まるで成瀬巳喜男の映画のように、すべてはもとのままに戻ってしまい、どこにもドラマの痕跡は存在しない。
現実はそうしたものだと言っているように見える。
すべての悲しみをじっと耐えているかのような、アズナブールの表情が素晴らしい。