逗子の市民劇団なんじゃもんじゃの公演、斎藤憐の芝居はかなり見てきたが、これは見ていなかったので、見に行くことにする。
市民劇団、アマチュアだが、30年の歴史があるとのことで、大人の劇団なので、役者が中年以上の役を演じても少しもおかしなところがなく、非常に良かった。
作者の斎藤の戦後民主主義、新憲法への拘りがよく分かり、その意味では安倍政権下で、非常に時機を得た意義のある公演だったと思う。
1945年の敗戦で、伯爵五條家には様々な難問が降りかかって来る。
当主は、無能で人の良い世情に疎いお殿様だが、夫人は邸宅を進駐軍の施設に接収されると、そこでダンスパーティーを主催し、GHQの将校とも親密になって様々な便宜を図り、困難に打ち勝ってゆく。いざという時の女の強さである。
恐らく、近衛文麿家や、GHQ民政局の高官との間が問題になった鳥尾夫人のことなどが元になっているのだろうと思う。
筋書きとしては、松竹映画『安城家の舞踏会』のようなもので、かつての使用人が成金になったり、得体の知れない闇商人が出入りしたりし、結局五條伯爵は、闇タバコの密輸で失敗し、弟から
「あなたはなにもしないことが一番みなに迷惑をかけないことなのです」と宣告される。
渋谷実の映画『本日休診』で、気が狂って戦争中だと誤認している三国連太郎のような下僕も出てきて、笑わせてくれる。
軍隊に入ったが、すぐに除隊してグレて、ヒロポン中毒になる長男が、朝鮮戦争開始と共に、警察予備隊に入って更生するのが実に皮肉。
同時に、出入りしていた商人が実は朝鮮人で、どちらかは不明だが、戦場に行くというところも付け加えられる。
三木トリローの『オヤまた停電マックラケー』も踊り歌われる。
コノ劇は、1982年の作だそうで、この頃が斎藤が一番良かった時だと思う。1985年の『アーニー・パイル』も良い芝居だったが、1990年代以降は急速に主題を失い、1995年の沢田研二主演の『異邦人』はひどかった。崩壊した社会主義神話への「愚痴」でしかなく、品川のアートスフィアで唖然としたものだ。
逗子文化プラザ 渚ホール