菊田一夫のヒット劇の映画化で、公演は1959年10月に芸術座で開始されたが、大ヒットで翌年の7月まで、9ヶ月のロングランになる。
この「がめつい」という言葉自体が、当時はかなり衝撃的な菊田の造語だったが、今では普通に使われるようになっている。
ロングランだったので、多くの役が別の俳優によってリレーして演じられているが、主人公のお鹿ばあさん、やや知能の低い孤児のテコ、さらに婆さんの義理の弟と称する向山は、三益愛子、中山千夏、そして榎本健一で、不動の適役だった。
私もテレビの舞台中継で見た記憶があるが、それほどのヒット作だったのである。
東宝のカラー、ワイドの映画は、このロングラン公演が終わってすぐに作られたそうだ。
エノケンの役が森繁久弥に代わっているのは、エノケンの体が悪くなったからだろうか。
ともかく話が非常に面白い。
大阪の釜ケ崎の簡易宿泊所をやっている三益愛子のお鹿ばあさんの吝嗇ぶり、さらにそこに住む住人たちの無法ぶりが凄い。
冒頭、交通事故が起きると、自家用車の運転手を病院に行かせ、事故にあった車を皆で解体して、ジャンク屋に売ってしまう。
その売買を仕切るのは、詐欺師の森雅之で、こういう役を名優がやるのだから、当時の映画界は力があったと思う。
その宿泊所の土地は、自分の父のものだとし、戦前の豪邸ではお鹿は下女中をやっていたという草笛光子は、「不法占拠だ」と権利書を振りかざすが、森に騙し取られ、さらにヤクザの山茶花究に買い取られてしまう。
森の愛人は、赤毛でロシア人の占い師安西卿子で、これも適役。
ともかくほとんどが悪人の中で、この草笛だけが善人で、最後に森を刺殺してしまう。
その森の洋服を全員が剥いでしまい、裸で埋めてしまい、死体がないというブラックユーモア。
その取調べの巡査としてワンシーンだけ、加東大介も出てくる豪華さ。
宿は山茶花の手下の仕事師・西村晃によって壊されることになり、全員が立ち退き料をもらって去ってゆく。
菊田一夫の戯曲集を読むと、映画はほとんど戯曲どおりである。
だが、今見ると、この吝嗇さ、貧乏話は相当に違和感がある。
その証拠に、菊田の作品で、『放浪記』は、何度も再演されているが、これはロングラン公演が終わり、地方廻りが終了した以後は一度も再演されていない。
その理由は、やはりここで描かれたことが、その後の日本の高度経済成長の中で、もう思い出したくない事柄となってしまったからである。
フィルムセンター
コメント
Unknown
×安西愛子
○安西郷子
「赤毛でロシア人」役で安西愛子は無いだろうと思いましたが、安西郷子ならたしかに適役ですね。
ありがとう
安西卿子でした。
外人のような美人で、大阪松竹歌劇団から新東宝に入り、後に東宝に移籍して三橋達也と結婚して引退したので、代表作はありませんでしたが。