2013年に『黒澤明の十字架』(現代企画室)を出して以来、必ず聞かれるのが、「お前は黒澤明が好きなのか」という質問である。
私は、荒井晴彦先生のように、昔は彼が嫌いだった。
だが、この本を書く中でかなり好きになったのは事実である。
溝口健二ほどではないが、かなり好きになったことは次の記述でわかるに違いない。
最後に、黒澤明を主に戦争とのわりでたどってきてあらためて感じるのは、彼がいかに誠実で、
自己に厳しい、責任感の強い人間だったか、ということである。そこには、黒澤天皇はいない。
きわめて繊細で、傷つきやすい、孤独な作家がいる。私はそのことにあらためて感動したことを
書いておきたい。
黒澤明は、近代以降の日本と日本人が、最大の歴史的事件として体験した太平洋戦争を、内面
化し、映画化した多分唯一の映画作家である。その映画は『平家物語』のごとく、国民的記録と
して永遠に残るに違いない。
これを回答にしたい。