映画監督の渡辺邦男は、非常に面白い方で、なべおさみが「シャボン玉ホリディー」でやっていたキントト映画の監督役は、渡辺のことである。
彼は編集の名人でもあり、編集機のムビオラなど使わずにネガを目で見て編集ができたそうだ。
監督の石井輝男は、新東宝で渡辺の作品『エノケンのホームラン王』で彼の助監督についたそうだ。
その休憩中につい
「先生はなんでこんなくだらない映画を撮るのですか」と聞いてしまった。
すると渡辺先生は激怒し、
「俺がなぜ200を越える映画を作って来たか言ってみろ!言え、言え、言え!」と言われた。
「先生は、どの作品でもモラルだけはきちんと守られてきたからではないですか」と石井が言うと途端にご機嫌になった。
「石井ね、俺もこんな映画は撮りたくないんだよ」
石井が、「では何をお撮りになりたいのですか」と聞くと、
「マルクスの資本論だよ」とお答えになったのには、石井は、「反共の闘志がなぜ」と非常に驚いたそうだ。
だが渡辺邦男は、早稲田大学時代は、社会主義運動の団体の建設者同盟のメンバーだったのだから、さもありなんでもあったのだ。