フィルム・センターの新藤兼人特集。脚本新藤、監督は当時増村保造、岡本喜八、
沢島忠らと並び新進監督だった中平康。
彼の『狂った果実』は、フランソワ・トリフォーにも影響した俊英である。
初老の自動車セールスマン(国産車ではなく、すべて外車)菅井一郎は、若手(アプレと言っている)西村晃に出し抜かれる日々で、実績が上がらず、愛人山根寿子がやっている居酒屋も全く繁盛していない。そこは、菅井の他、同じ中年の浜村純、殿山泰治らが屯し安酒を飲み愚痴を言っている。西村が若手には見えないのが、この映画の唯一の弱点。
ある日、西村が菅井に自動車の保険金詐取を持ち掛け、菅井はやってみるが、どうしてもコンクリートに車をぶつけることが出来ない。
そこに殿山泰治が突然現れ、一気にロータリーにぶっつけて事故死してしまう。
ここまでが前半で、すごいスピードで展開する。
当時、増村、岡本らとの間に台詞のスピード競争があった。
新橋、虎ノ門付近に車磨きの若者がたむろしている占領下、植民地的風景も出る。
菅井の子が大学生の小林旭とバーの女給渡辺美佐子。
旭はヤクザ波多野憲との賭ビリヤードに負け、それを取り戻すため、西村の勧めで保険金詐取しようと車を走らせる。
それを知った菅井は、千駄ヶ谷の現場に駆けつけ止めるが、旭は父親を撥ねて殺してしまう。
最後に出るタイトル「殺したのは誰だ」
勿論、中平は「時代である」と言っている。
菅井ら、「満州時代」を懐かしみ、その実アル中の中年の戦前派はもうお呼びでない、「今は、われわれ戦後派の時代だ」と言っている。
だが、皮肉にも、すぐに中平は「強度のアル中」になってしまい、後続の連中に抜かれ、日活以後、香港に行き旧作をリメークしたり、東宝系や自分の会社で作ったりするが凡作ばかりになる。
最後のATGでの『変奏曲』など、予告編しか見ていないが、主役の佐藤亜土と麻生れい子が素人同然で芝居にならず、麻生の台詞は声優が全部葺き替えた。
そして、わずか52歳で死ぬ。
昔々、『ストレイ・シープ』で文芸賞を取った中平まみは、彼の娘である。