バンクーバーの朝日と言っても、別にバンクーバーに出る初日の出のことではなく、戦前にバンクーバーにあった日系人の野球チームの名称である。
ハワイ朝日軍なら、昔巨人に広田という捕手がいて、ハワイ朝日軍出身だったので知っていたが、カナダのバンクーバーにもあったとは知らなかった。
カナダや対岸アメリカのシアトルへの移民は、当初はカニ漁などの漁業だったが、その後製材業、鉄道敷設等に広がったそうだ。
日本から移民で出稼ぎに来た佐藤浩一の息子で日系二世の妻夫木聡は、製材所で働いているが、木材運びの単純労働で、多くの日系人が従事している。
だが、アジア人は差別されていて、同一労働でも賃金はカナダ人に比べて著しく低い。
また、日本人は日本人街を作っていて、佐藤浩一などは、英語も憶えず、カナダ社会に同化しようとしない。
儲けた金はすべて故郷に送金し、カナダで成功しているという虚名に生きている。
要は出稼ぎで、いずれ日本に帰るつもりである。
妻夫木聡たちは、ノンプロの野球チーム朝日を作っているが、肉体的に劣る彼らはカナダ人投手の球を全く打てず、ホームランを打たれてで負けてばかりいる。
「日本でも職業野球ができた」という台詞があるので、昭和11年ごろのこと。
他のメンバーは、漁師、ホテルのポーター、実家の豆腐屋の手伝い等で、練習時間もままならず、一向にチームは強くならない。
また、彼の妹エミーは高校で成績優秀だが、日本人との理由で奨学金が受けられず大学に進学できない。
ある試合で妻夫木は、バントでの出塁、盗塁、ヒットでの得点を上げ、それから全員がバント戦法で勝つようになる。
「ブレイン・ベースボール」として、新聞からも評価され、他地域へも遠征試合に行くまでになる。
そして、バンクーバーの日本人社会の誇りとなって行く。
だが、1941年12月7日、日本はハワイ真珠湾を攻撃し、日米戦争が始まり、日系人は強制収容所に送られ、チームもなくなる。
2000年代、カナダの野球殿堂に朝日軍は表彰されたとのこと。
また、日系人の強制抑留についても、映画では説明はなかったが、調べると1980年代にカナダ政府から謝罪と慰謝料の支払いが行われたそうだ。
監督は石井裕也なので、きめ細かく描写は的確だが、その分ハッタリに欠け、大きな盛り上がりはないのは不満な方もあるかもしれない。
美術が凄くて、当時の日系人街を見事に再現している。
来年には、台湾の高校が甲子園に出た映画も公開されるそうで、野球についても海外からの視点の作品があるのは非常に面白いと思う。
横浜ブルグ13