『海よお前が』

蜷川幸雄が最初に監督した映画で、航海訓練所の練習船「日本丸」の訓練生を主人公にしたものだが、ロード・ショー公開以後全く上映されたことのない作品。
久里浜少年院の虞犯少年を主人公にした羽仁進の名作『不良少年』を期待したが、練習生を演出したのは、プロデューサーの銭谷功さんであることが、上映終了後のご本人のお話で分かった(川崎市民ミュージアム)。

ハワイへ向けての航海訓練に同行したのは、銭谷とカメラマン等のみで、田村高広、鈴木瑞穂、山田吾一らプロの役者は、日本丸が日本各地に入港しているときに分けて蜷川演出で撮ったのだそうだ。

銭谷功は、日活出身のプロデューサーで、裕次郎の『太平洋ひとりぼっち』や、三船の合作映画『太平洋の地獄』などのドキュメンタリー的作品を作っている。

『海よお前は』の帆船と海の映像は素晴らしいが、プロの役者の演技と素人の芝居があまり上手くつながっていない、中途半端な作品である。
この後、東陽一が『サード』等でドキュメンタリーと演技が融合した名作を作る。それは寺山修司の脚本と東の即興演出のよさで、そこまでは行っていない時代の作品であると言える。

太平洋をヨットで一人で横断航海した堀江兼一は、今のホリエモンのごとき風雲児だったが、今では想像できないだろう。

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