池部良の追悼特集の1本、と言っても主演は池部良ではなく、キャバレーの女白蘭を演じる木暮美千代である。
1951年の東宝配給作品、製作は第一協団となっている。
第一協団とは、プロデューサー浅田健三が代表の俳優集団で、菅井一郎、河津清三郎らの多数の俳優がいた。
脚本は、新藤兼人と棚田吾郎。原作はモーパッサンの『脂肪の塊』で、これは普仏戦争下で乗合馬車で逃げる人間と、そこにくる娼婦を描いた小説である。
このドラマは「グランド・ホテル形式」と言い、一つの空間に様々な人間が出て、そこで様々なドラマが起きる。舞台が動かなければホテルだが、移動すれば、ジョン・フォードの『駅馬車』が典型で、その他『エアーポート』などのパニックものも、同じジャンルになる。
ここでは、1945年8月、敗戦時に満州の首都から、菅井一郎のトラックで逃げる人々を描いている。
ヤクザ風な運転手は山村聡、その他満州国の高級官僚一家、商人など。汐見洋、沢村貞子、中北千枝子、岡村文子、柳谷寛ら東宝系の脇役が多数出ている。
そして砂漠の真ん中で、キャバレーの踊り子木暮美千代が乗りこんで来る。
匪賊の襲撃で、積んでいたドラム缶のガソリンがなくなり、トラックは動けなくなるが、運よく、ガソリンが山積みされている自動車部隊の基地に遭遇する。
だが、指揮官の池部良は、
「ガソリンが欲しければ、白蘭を連れて来い」との難題を吹っかけて来たと言う。
命令を伝える軍人は、小杉義男。
そこで、白蘭に対して、「早く池部の部屋に行け」と言う沢村、中北ら上流婦人のエゴイズム、差別意識が強烈に発露される。
そこに、匪賊の夜襲があり、日本人みなが団結して戦う。
翌日、木暮は意を結して池部の部屋に行く。
すると池部は「冗談に言ったまでだ」と。
そこに参謀河津清三郎が来て、池部らの前線への突撃命令を下す。
全滅を覚悟して村を出て行く池部隊長以下、ガソリンを積み村を出てゆく菅井一郎らのトラック。
木暮は、女たちの蔑視には耐えられないと一人村に残る。
監督は木村恵吾で、作り方はとても上手く、木暮美千代の演技も細かい。
木暮は、黒澤明の『酔いどれ天使』、今井正の『青い山脈』等のお色気おばさんとしか見られていないが、本来は大変上手な女優で、ここでは、細かく演技しているのはさすがである。
東宝が、ストライキの直後、正規の製作体制ができず、外部プロダクションの力を借りて作っていた時代の作品である。この後、1953年頃から東宝はきちんとした製作体制になる。
衛星劇場
コメント
Unknown
指田さん、いつも楽しく拝見しています。
同じくモーパッサンの「脂肪の塊」を題材にした溝口健二の作品(戦前のサイレント映画)「マリアのお雪」があります。この映画は、山田五十鈴が主演でした。貴殿のブログを読んでふと思い出しました。